魔晶個体には魔剣少女⑧
言われてから気が付いた。いつの間にか竜が激流ビームを放っていたのだ。
俺を吹き飛ばしたときのものより勢いが強い。遠くの標的用に強化したのか。
一度は自身を傷つけた奔流が迫りくる姿を目にしながらも、俺にはそこまで考えるだけの余裕があった。
思考どころか、ビームが迫ってくるのもゆっくりとしているように見える。
とはいえ、このまま棒立ちではいられない。再びディアナの声に意識を傾ける。
『少々マスターの心素を頂きます』
ディアナの変化した剣を、剣道の居合を真似て左脇の腰付近で構えると、俺から剣へと、形のない血液のようなものがほんの少し流れ出たのを感じた。
わかる。俺が少し意識しただけで、剣がとんでもない力を纏うのが。
竜の放った水柱が迫る。今、壁に空いた大穴を更に削り取った。
もう俺たちとの距離は一メートルもない。
『振り抜きながらご唱和ください』
異界の力纏う剣を、彼女の指示とともに勢いよく右上に降り抜く。
二人の声が重なる。
「『――リ・ディアセレナ!』」
剣から、降り抜いた刀身が描いた軌跡をなぞる、夜色の波動が放たれた。
荒ぶる三日月の形をした波動は、勢い緩めず迫りくる水柱に衝突し、一瞬のうちに蹴散らした。
波動の接触した箇所から周囲に水が飛び散っていく。首長竜の魔晶により一塊となっていた大量の水が、宿していた意思を失ったかのようだ。
波動はそのまま、あたかも川を逆走するかの如く飛翔する。
竜の放つ水柱を辺りに飛散させながら突き進み……発射口となった竜の口腔を斜め一筋に切り裂いた。
波動が目標に直撃して霧散し、首長竜の赤紫色の血液が宙に舞う。竜が痛みに身をよじらせる。
「凄ぇ……」
剣を振り切ったあと、放たれた剣閃の邁進驀進っぷりに呆けていた俺は、ようやくそんなボキャ貧な一言をひねり出した。
『いえ、浅いです、マスター。あれでは魔晶個体は撃退できないでしょう』
ディアナの声が冷静に結果を告げる。
確かにそうみたいだ。人間でいえば唇を切った程度だもんな。
首長竜の目は、遠巻きながらに見ても攻撃の意志を失っている様子ではない。それどころか、予想外の反撃により怒りを増しているかのようだ。
『魔晶の回収もあります。次は接近して攻撃しましょう』
「接近ったって、どうするんだよ。あいついるの湖のど真ん中だぞ」
ただでさえボロボロなのに、剣を担いで泳いでなんかいたらいい的だ。
『ご心配には及びません。先ほどの闇夜神路で、響心率が一〇〇を超えました。月神舞踏へと移行できます』
へぇ、さっきの波動ってそういう字の技なんだ……変なの。言葉で聞いてるだけなのにディアナの言う字も何故か理解できる。まあ、ディアナの声も頭の中で響いているから、言葉とは違うんだけど。
ていうか君、漢字分かるんですね。




