金・二・奏①
「――ッ! はぁっ、はぁ」
ガランゾ王城の中庭で、アタシは一時間のソロライブをやりきった。
汗だくで息を切らせるアタシの姿を臨む観客はたった一人。
今アタシが立っている、木箱を並べて上に板を敷いただけの、舞台とも呼べないような粗末な壇上。
そこに向き合った椅子に無表情で腰かける、ユーハだけだ。
……グゥイさんの話を聞いたあと。アタシはユーハの意識を取り戻すための思い付きを実行に移した。
まだ出会って一ヶ月も経っていないけれど、ユーハがどんな人間か、少しは知ってるつもりだ。
アイドル、と言うよりは、シロカゼルナという少女に心酔する熱心なファン。
ルナのライブ参戦のために、多くの召喚者が一年でようやく達成する魔晶回収を、一ヶ月そこらで成し遂げようとする。そんな、無鉄砲とも頑固とも言える強い意志を持ってる。
それがアタシがこの短い期間、一緒に過ごしたことで感じたユーハの印象。
ガランゾに落ち伸びてから三日、ベッドに横たわるユーハへ、アタシはずっと話しかけ続けた。
ルナのライブに行くんでしょ、ディアナをこのままにしておけない、三人でまたライブしようって決めたじゃない――いろいろなことを呼びかけた。
でも、その言葉のどれにもユーハは反応を見せなかった。万全のアイツなら、絶対に聞き流せないに違いないのに。
サンファに心素を奪われ、意志を失った……ルナのライブに参戦する、という心素の源泉を失ってしまった今のユーハには、それらの言葉でも届かないんだと、アタシは思っていた。
だけど、グゥイさんの話を聞いて、冷静になって考え直して……その考えは間違っていたのかも、と思った。
ユーハに、アタシの言葉はちゃんと届いていたとしたら?
効果が無いのではなく、効果が出るには足りないだけだったとしたら?
かなり強引なこじつけかもしれないけど、可能性は、あった。
そして、もし仮にその可能性の通りだとしたら、今のユーハを起こすには、言葉だけじゃ足りない。
もっと、心の奥底に届くような、魂そのものを震わせるようなものを届けなきゃ。
――マリーネでの舞台を思い出す。
方法は一つしかない。
だけど……寝起きのぶっつけ本番でやるのは、流石のアタシでもちょっと怖い、かも。
そう考えたアタシは、日中を簡略的なトレーニングに費やし、コンディションを整えた。
そして、時間が過ぎて、すっかり夕焼けに染まった空の下。
アタシはたった一人の観客のために、約二週間ぶりのソロライブを開催したのだ。




