一人ぼっちの世界に①
――ここは、どこだ?
気が付くとそこは、自分の身体以外何も見えない久遠の闇の中だった。
音も光も無い、どこまでも果てしなく続く漆黒の世界。思いつくままに歩いてみたが、これといって見えるものも無ければ、足音さえ響かない空間だった。
……どうして自分がこの場所にいるのか、まるで思い出せない。
それどころか、自分が一体誰なのかさえも思い出せなかった。
この闇の世界がどこなのかという疑問よりも、正体不明の自分自身に対する不信感の方が勝り、その場で思案に耽るも、思い返せる記憶は何一つ無い。
そんな中、一つだけ分かることがあった……それは、何か大切なことを忘れている、ということ。
胸の奥底に、一番大事に思っていたもの。
日々を生きる希望となっていたもの。
それくらい大切な何かがあった。だけど、今はそれが何だったのかも思い出せない。
ただ分かるのは、かつて抱いていたその何かを、今は失ってしまったということだけ。
胸に穴が空いたように空虚な感覚だけだった。
虚ろな胸の内に、その何かを思い出せるものが一かけらでも残ってはいないか……意志と言うには薄弱に過ぎる思考を浮かべ、胸元に手を添える。しかし当然、その手が何かを得ることは無い。
むしろ、その右手が何やら物足りなさのような心持ちさえ覚える始末。
……前に、何かがあった気がする。この手が取る、いや、この手を取ってくれる誰かが。
そしてそれは、胸の奥にあった大事なものと、強い関わりがあったような……
だけど、やはりそれ以上のことは思い出せない。
ここはどこなんだ。
なんで自分はここにいるんだ。
『俺』は一体、誰なんだ――
苛立ちにも似た逡巡が頭を満たしたと自覚すると同時に、どこかから、人の声のようなものが聞こえてきた。声が聞こえてきた方角を見てみるが、そこには周りと同じ暗闇が彼方まで広がっているだけ。
しかし声は確かに聞こえる。若い……少女の声、か?
どこか聞き覚えのあるその声に吸い寄せられるように、俺はゆっくりと歩き出した。




