金・一・迷③
かつて私が本来の主に仕えていたのは……そうですね、今から数十年ほど昔のことになるでしょうか。
驚かれましたか? こう見えて、貴女の数倍は年上なのですよ……そんな年齢には見えない? お褒めに預かり光栄ですが、響心魔装とはそういうものですので。
ともあれ、今から数十年ほど前、マスターと私は、かつてのユーハ様とディアナのように、各特異点管理国を巡り、魔晶回収の任に就いておりました。もっとも、お二人のようなハイスピードではありませんでしたが。
その道中にフレア様とも出会うことになるのですが……結果的に我々は多くの例に漏れることなく、マスター召喚から一年弱の時を経て、エーテルエンドへと到達することが出来ました。
その一年の間、私たちの間で交わされた会話は、ごく少ないものでした。マスターは特段口数の多い方ではなく、であるならば私は、マスターのその御意思に沿うまで。
ですがそれは、マスターが冷血な人物、ということでは無かったのです。言葉こそ少なかったけれど、生命回路を通して伝わるマスターの心素には、故郷を憂う思いや、時には私を気遣うお気持ちさえも感じられました。
私もまた、そんなマスターを信頼しておりました。
ですがそこを、あの心魂奏者に利用されたのです。
……ええ、そうです。私もディアナと同じように、彼の地でマスターに刃を向けてしまったのです。
今でも覚えています。己の限定魔装が、マスターを貫く感触を。槍に、手に伝わった感覚を。
心魂奏者はおそらく、我々響心魔装の真名を鍵とする何らかの術式を施していたのでしょう。
彼の者がその名を告げる。それだけで響心魔装の意識を支配し、主を襲う傀儡となるように。
心魂奏者が、マスターから巻き上げた心素結晶を手にし、それと同時にマスターが倒れ伏した途端、私の中で僅かに残っていた自我が一気に膨れ上がり、私は発狂してしまったのです。そこでぷっつりと視界が暗転し、私は意識を失いました。
……目が覚めたのは、それからどれくらい後のことだったのか、分かりません。
気が付くと辺りは真夜中で、ただ沈黙だけがその周囲に満ちていました。神殿には私以外に人の気配は無かった。心魂奏者も……マスターの姿さえも。
私がマスターを襲ったという出来事が、何かの夢だったのではないかと思う程に平然とした、耳が痛くなるほどの静寂でした。
ただ、マスターが倒れた場所に広がる、夥しい血溜まりと、私の全身を染める返り血。
その二つの事実が、その場で起こったことが現実のものであると、まざまざと私に実感させました。




