金・一・抗②
短剣を受け取ったサンファ、様が、既に空になったはずの魔晶……魔晶鋼に、短剣を突き刺した。
すると、短剣に納められていた、ユーハのものと思われる心素が、魔晶に吸収されていく。
強靭な武具にも加工されるほどに頑強なはずの魔晶鋼が、荒天島の嵐みたいに乱れ騒ぐ心素を取り込みながら、ガリガリと削られていく。
全てが落ち着いたとき、そこには、一本の木を簡単な絵にしたような形の、夜色の結晶体だけが浮かんでいた。あの中に、ユーハの心素全部が詰まってる。
アレを取り返さないと――!
麻痺に疼く足で一歩踏み出すと、その足音で気付いた様子のサンファ、様がアタシに向き直った。
「あれ? 君まだいたの」
「それ……っ! 返して、下さいよね……!」
歩くたびに全身を麻痺呪の痺れが駆け巡って、刺すような痛みで顔が歪む。
ファンには見せらんない、わね……! アタシ、今きっと酷い顔してる。
でも、今はそんな顔になっても、アタシがやんなくちゃ。
必死になって前進するアタシを、何の興味も無さそうな顔でサンファ、様が見つめる。
退屈さを隠そうともしない溜め息をつきながら、ユーハの心素が詰まった結晶をそっと手で包んだ。
「ディアセレナ、厳守しなさい。あ、いや、違うな。死守しなさい。これはお前の命より重いから」
「イエス、マイマスター」
またもや感情が感じられない声で、ディアナが立ち上がる。ディアナは、サンファ、様から受け取った結晶体を大事そうに両手で受け取り、服の内側にしまい込んだ。
ディアナが懐から手を出した瞬間、ひらり、と一枚の紙が空中に躍り出た。
アレ、は。
アタシが貰ったのと同じもの。
――ほら、アイリスの分……え、何その驚いたカオ
ひらひらと宙を舞う紙は、誰に掬い上げられることも無く、そのまま地面に落ちる。
――あの時のは冗談だよ、渡すつもりでいたって……友達、だろ?
ルナの、ライブチケット。
受け取ったときのディアナは、あんなに嬉しそうだったのに……あんなにも、救われた表情だったのに。今は仮面をかぶったみたいに無表情で、目に生気が無くて。
落ちたチケットを、拾う素振りすら見せない。
奥歯を噛み締める。
許さない。
「アタシが、取り返すんだから……!!」
グッとこぶしを握ったアタシを、サンファ、様が笑い飛ばした。
「キミがぁ? 一人で? 無茶をお言いでないよ。ろくに解呪も出来ないくせにさ」
「そんなのっ、関係……無い!」
アタシはその場で膝を深く曲げた。
全身に巡らせていた、身体強化の魔素を両の脚に集中させる。
直後、一気にサンファ、様に向かって地面を蹴った。




