根っからの裏方気質なもので⑤
そうしてテンションが青天井になり、何の用意もしていないのにその場で一人アンコールライブを開催しようとしたアイリスを、ベイン氏含む三人がかりで取り押さえた翌日の昼下がり。俺、ディアナ、アイリスはベイン氏に見送られ、マリーネの王城を後にした。
出発時刻が昼過ぎになったのは、急遽開催と相成った『ディアナ・アイリス握手会』に午前中いっぱいが費やされたからである。
本当は朝一でマリーネを発つ予定だったところを、宴会後に城へと押し寄せた多くの人々による、『ライブに参加できなかった我々にも彼女らと触れ合う機会を!』という要望に少しでも応えるべくこういう形を取ったのだ。
ライブステージ上でディアナとアイリスが横並びになり、ステージ手前に控えるベイン氏の誘導で一人ずつファンたちが案内され、二人と順に握手を交わしてステージを下りる、といった流れで開催されたのだが、訪れた人の多いこと多いこと!
突発開催でありながら、ライブ参戦者による口コミ効果でもあったのか、確実に昨日のライブ参加者数より多かった。
嬉しい悲鳴を胸中で叫びながら、俺は兵士さんたちに混じって列の整理に追われた。
その人数のお陰と言うべきか、悲しいことにと言うべきか、実際に二人と握手できる時間は数秒程度だ。
その僅かな時間内でも、ディアナとアイリスは決して投げやりな対応はせず、一人一人としっかり握手を交わし……数時間かけて、来場者全てとの対応を完了した。
ライブとは異なり、来場者一人一人が彼女たちと共有できる時間は短いものだったが……会場を後にする彼らが皆一様に笑顔を浮かべていたことが、この握手会の成功を何より証明していた。
その後少しの休憩を挟み、身支度を整え……俺たちはマリーネを出発した。
昨日アイリスが口走ったツアー開催云々については、ベイン氏はしっかり未定の話であることを理解してくれていたので助かった。
……これで、魔晶は全ての回収が終わった。
あとはマリーネの程近くにあるという、最果ての地――エーテルエンドにあるという神殿に、魔晶から回収した魔素を納めれば、俺たちの旅は終わる。
ルナちゃんのライブ開催まで、残すところあと九日。エーテルエンドには一日もあれば到着できるとベイン氏は言っていたから、何事も無ければ、一週間ほどは余裕をもってライブに臨むことが出来るだろう。
最果ての地で俺たちを待つのは、順調な帰還か。暗躍しているという、トレイユの神位魔術師サンファの罠か……不安はあれど、歩みを止める気はない。
そうさ。ここまで来れた俺たち三人ならきっと、何があっても大丈夫、だよな。
昨夜、ディアナ達からかけられた言葉を思い返す。
どこか暖かなものを胸に感じながら、俺はまだ見ぬ異世界の果てに向かって歩き出した。




