根っからの裏方気質なもので④
じりじりとお互いの出方を窺う俺とアイリスを見つめ、ベイン氏が呟く。
「ええ、皆様のお陰で私たちは活気を取り戻した。これで、国の復興も恙なく進められるでしょう……お三方、これは今後、機会があればの話なのですが」
「? なんですか?」
俺はデコピンを構えたままの右手を下ろし、ベイン氏へと向き直った。それを見たアイリスもようやく警戒を緩め、額を防御していた両腕を戻す。
「終わったばかりで気が早過ぎる、とは承知しておりますが……また、この国でライブをして頂けませんかな」
「っ!」
彼の言葉に、背後でアイリスが息を呑む声が聞こえた。
俺もディアナも驚き、思わず顔を見合わせる。
言葉を交わしはしなかったが……俺たちの返事は決まっていた。
「……ええ、もちろんですっ! 次は特異点管理国全国ツアーを予定してますから! マリーネをツアー最終日に設定して、大いに盛り上げちゃいますよ!」
俺の背後から飛び出した金髪の少女が、再びふんぞり返って声高にそう応じた。
いやいや待て待て待て! 何勝手に興行予定組んでんだよ! 開催国の了承も得てないし日程とか内容とかどうするつもりだ――そうアイリスにツッコもうとしたところで、自分が彼女に賛同する前提で発言しようとしていたことに気付き、言葉を飲み込む。
まあ、そんなにも浮かれてしまうアイリスの気持ちは分からなくもない。
アイリスはこれまでずっと一人で頑張ってきた。だけどその頑張りは……主にその壊滅的な歌声のために、周囲の理解を得られず、結果、ファンが出来ることも無かった。
それが今は、一国の住民全てと言っていいほどのたくさんの人たちが、自分のライブに参列し、歓声を上げ、喜んでくれている。
その、ディアナも抱いていた歓喜の気持ちを、アイリスもまた感じているだろうことは明白で。
それなら衝動的に、ちょっと大きなことを言ってしまうのも無理は無いかもしれない。
そう思い、ツアー開催はあくまで予定というか願望です、的なフォローを後でベイン氏に入れればいいか……と気を緩めた俺は、想像以上に具体的なツアー内容のプレゼンを語り出したアイリスを見て、即座にその口を塞ぎに走る羽目になったのだった。




