根っからの裏方気質なもので③
「そう……ですかね」
「ええ、そうですとも」
雲鯨を撃退し、ライブ会場へ戻る最中、俺自身がディアナへとかけた言葉。それに似た言葉を今度は自分へと向けられ困惑する俺に、ベイン氏は口許に湛えた笑みで答えた。
戸惑いに包まれ、意図せずぎこちない動きになる。
そんな俺の背後で、ベイン氏とは対照的な大声が響いた。
「そーよユーハ! そうやって過剰に卑下するの止めなさいよね!」
「あ、アイリス?」
いつの間にそこに居たのか、ベイン氏との会話をすべて把握している様子の自称アイドルが、腰に手を当てて指を突きつけてくる。
「アンタ、もっと自信持っていいのよ! ガランゾでフレア様も倒したし、ベロニカでだって、でっかい魔獣やっつけたじゃない!」
そりゃまあ、そうだけど……前者は相手が手加減してたし、後者はディアナの新技のお陰だしなあ。
アイリスの言葉にもいまいち納得しかねている俺に、相棒までもが賛同の言葉をかけてきた。
「そうですよ、マスター。貴方様でなければ、きっと私たちはここまで来れていなかったと、私も思います」
「ディアナまで……」
「そうですね……貴方様の、白風瑠奈嬢に対する熱意が途轍もなく強かった、と言えば、ご納得頂けるでしょうか?」
「わかる」
すごくわかる。
「はっや! ……さっきのアタシと反応違いすぎでしょ!」
ディアナの説明がクリティカル過ぎたから仕方ない。
スプリングロードゥナや何体もの魔晶個体を退けられたのは、ルナちゃんのライブに何が何でも参加するという、俺の揺るぎ無い信念ゆえ。なるほど納得だ。
それが理由でマリーネも救う結果になったと考えると、結構本気で凄いのではないだろうか。
俺の熱意もそうだけど、そんな結果にまで至れるほどの熱意を起こさせるルナちゃん、神アイドルなのでは?
俺が久方ぶりの脳内現実逃避を繰り広げていると、「ま、そーいうことよ」とアイリスが肩を落とした。
するとすぐさま、ほら見なさい、とばかりのドヤ顔を作って胸を反らす。
「まあそもそも? アタシみたいな、エーテルリンク唯一にして至高のアイドルのトレーナーである時点で、街行く人全員にそのことを触れ回っても良いくらいなんだからねっ」
イラッ。
こいつなんかテンション高くない? まさか酒飲んでねーだろうな。
得意げな表情を浮かべる少女のデコに、立ち上がってデコピンを食らわす……酒の匂いはしないな。じゃあ素か?
……念のためもう一発いっとくか。
再びデコピンの姿勢を取る俺を見て、アイリスが額を押さえて後ずさる。
そんな俺たちの様子を見て、ディアナとベイン氏が微笑んだ。




