根っからの裏方気質なもので②
こういう場はいつまでたっても慣れないな……もはや機械的な動作でスープを啜り続ける俺に、左隣のベイン氏が声をかけてくる。
「無理を言ってすまないね、ユーハ殿。人前は苦手かね?」
「いやまあ……そうですね」
煮え切らない返事を返す。思い返してみれば、地球での生活も人前に出ることを極力避けてきていたからなぁ。学校でもなるべく息を殺して目立たないようにしていたし。
授業中に先生に当てられるだけで緊張しちゃうんだよな。頭が真っ白になって嫌な汗が全身から噴き出す。もしも何かの間違いで生徒会長なんかになってしまって、全校生徒の前で発表させらりたりした日には、命がいくらあっても足りないと思う。
勿論マリーネの人たちが、俺のことを貶めそうとしたり、笑いものにしているのではないと、頭の中では分かっている。それでも、どうにも……どうにも慣れない。ほんとに。
この気質が生来のものなのか、かつてイジメを受けていた影響によるものかは分からないけれど。
そういう意味でも、ディアナとアイリスのことは本当に凄いな、と思う。
「こんなにたくさんの人たちの前で、あんな素晴らしいパフォーマンスが出来るんです。彼女たちに比べたら、俺は何にもしてないですよ」
自嘲気味に笑い返す俺に、何故か渋い顔を作るベイン氏。
……何か変なことを言っただろうか。
眉間に皴を寄せたベイン氏が、真面目なトーンで語りかけてくる。
「ユーハ殿。それは違います」
「え……?」
「確かに、ディアナ殿とアイリス殿のステージは素晴らしかった。それは疑う余地のないところですとも。ですが、そのステージが成功したのは他でもない、ユーハ殿の尽力あってのことなのですよ――」
――貴方がいなければ、今日この国に、召喚者は訪れなかった。
ディアナ殿がアイドルを志すことも無かった。
アイリス殿が故国を出ることも無かった。
先ほど、この場のあまりの居辛さにほぼ一方的に語っていた、これまでの俺たちの道程。それを踏まえた言葉が穏やかに紡がれる。
「そして……マリーネは救われなかったでしょう。滅んでいたことでしょう」
ベイン氏が、あり得たかもしれない未来を夢想し、視線を彼方へ馳せた。
その視線が最悪の未来を……生命が途絶え、崩れ落ちた家屋のみが広がる、マリーネの姿を幻視させる。
しかし同時に、現実に目の前に広がる人々の喧騒をも写し出したのだろう、ベイン氏の表情が柔らかいものに変わる。
「貴方がいたから、貴方たち三人が今この時、この場にいてくれているのです。そのことをもう少し、素直に受け止めても良いのですよ」




