魔晶個体には魔剣少女⑤
「私ども『響心魔装』は、特異点を巡る召喚者のために生み出された、忠実な従者にして特効武装です」
「その主命は、滅びゆくエーテルリンクの救済……すなわち、特異点における迅速かつ確実な魔晶回収の完遂にあります」
「そのために備わっている能力を十全に発揮するには、自らが主と定めた異世界人との正式な契約が必要です」
「つきましては、貴方様には私と正式な契約を結んで頂きたく思います」
「さすれば、私はこの身命を賭して、貴方の剣となり、翼となりましょう」
「…………」
頭を下げたままの少女――ディアセレナに対し、俺は無言。
どこかの女王とクソイケメン魔術師の無遠慮さを彷彿とさせるような怒涛の説明だったが、不思議と俺の脳内は冴えていた。体に続いて頭の方もびっくり係数が限界値を越えちゃったのかもしれない。
不穏な単語やら不明な用語がやたらに出てきたようだが、それらは全部、今は置いとくことにする。
聞きたいことは、一つだけだ。
「あんたの力があれば、すぐに全部終わらせられるのか?」
「それが、主の意志であるならば」
身じろぎ一つせず、即答。
ふぅん、そうか。
つまりは俺の気持ち次第ってことだ。
――じゃあ、何の問題も無いな。
「俺は、何が何でも絶対今すぐ即座に直ちに地球に帰りたい! ……ってくらい、必死だ。
推しアイドルのライブがあるんだ。そのために、力を貸してくれるか」
俺はゆっくりと、ディアセレナに向かって右手を差し出した。握手の要領だ。
正式な契約とやらがどんな手続きなのかは知らないが、まさかこんなところで書類にサイン、なんてことは無いだろう。それなら、俺にできる契約の意思表明は握手くらいだ。
そんな俺の思いを汲み取ってか、ディアセレナが面を上げる。
差し出された右手を見つめ、握手を交わすべく自身の右手を持ち上げる。
しかし、その直後に彼女が掴んだのは俺の右手首だった。
「えっ待て。掴むとこ違うぞ」
「失礼します」
そう言うが早いか、ディアセレナは空いていた左手で俺の右人差し指を摘まみ、そのまま口に咥えた。
指先が生暖かく柔らかな何とも言えない感触に包まれ、思わず首の後ろ辺りが総毛立つ。
えっお前ちょっと何やってんですかディアセレナさんっていうかディアセレナって言い辛いなようしこれからはディアナって呼んでやろうかはっはっは――
なんてすっかり十八番になった脳内現実逃避を繰り広げていると、指先に鈍い痛みが走った。
皮膚が裂け、血がじわりと滲み出てくるのがわかる。




