生け簀に刺し込まれる銛の気分⑦
雲鯨の瞳に明確な敵意を感じた俺は、トレイユの魔晶個体たる首長竜のことを思い返した。
その想起が直後の行動をも瞬時に予想し、迎え撃つべく空中で急ブレーキをかける。
俺の体勢が一瞬乱れたところを狙って、魔晶個体の額から、周囲の嵐を一本に束ねたかの如き暴風雨が放たれた。
荒れ狂う風雨と雷が、一筋の細長い竜巻の形に収束され、向かって来る。
その技を首長竜のごん太水ビームと重ねた俺は、夜色の魔法陣の上で右足を下げた半身の姿勢を取った。
「『黒刺夢槍!!』」
前方へ振り抜いた右足から、嵐を迎え撃つ夜色の槍が放たれた。
棘持つ黒の波動は、真正面から暴風の柱を受け止める。
嵐と槍が中空で激突し、スプリングロードゥナとの最後の攻防を思わせるスパーク音が盛大に鳴り響いた。その時とは異なり、一瞬の交錯ののち、両者は相殺されて消滅する。
その効果を片目で流し見ながら、俺は再び反転し、地上へと跳躍した。
飛び退る俺の背中を狙い、雲鯨が再度暴風の柱を打ち出す。同じように黒刺夢槍を放って相殺させるも、諦めず雲鯨は魔法を放ってくる。
その度俺は足を止め、迎撃した。あの嵐ビームが一発でも結界魔法に当たったら、間違いなく破壊されてしまうだろうからだ。
迎撃しては地上への跳躍を繰り返し、少しずつ進んでいく。
魔晶個体を追いかけた時とは何もかも真逆なシチュエーションながらも、どうにか結界に触れられるほどのところまで辿り着くことが出来た。
すると、頭上の雲鯨が一際音高く嘶いた。
追撃の魔法を放ちつつも追いかけてはこなかったので、引き離せば諦めるかという淡い希望も抱いていたが、どうやらそれは甘かったらしい。
これで最後だとばかりに、先ほどまで一本ずつしか放ってこなかった嵐の柱を、両手の指では足りないほどの数一気に撃ち出してきた。それと共に魔晶個体の持つ魔素が枯渇し、最後の一撃だと窺わせる。
乱雑ながらも適度に広がった配置で、黒刺夢槍の一撃では相殺しきれない。
その様子を見上げたとき、俺が呼び掛けるよりも早く、ディアナの声が脳内に響いた。
『――こんな嵐、なんてぇぇぇええ!!』
ディアナが叫ぶ。その声に、猛る想いに呼応するかのように、俺の右足に集約された心素が三日月型の軌跡を描く。
「『闇夜神路!!』」
放たれた波動は、黒刺夢槍にも匹敵するほどの濃密な心素を宿した特大の大きさだった。
闇夜神路は、向かい来る嵐の柱全てを余さず受け止め、ほんの一瞬だけ、その全てと拮抗して動きを止める。
そして、その一瞬ののち、嵐全弾を蹴散らし、魔晶個体含む雲鯨たちの何匹かを飲み込んだ。
なんとそれだけに留まらず、夜色の波動は雲鯨らを飲み込んだ勢いのまま……彼方へ向けて飛び去って行ったのだった。




