生け簀に刺し込まれる銛の気分③
上空に吹き荒れる嵐の勢いは先ほどと変わった様子は無い。このまま結界が途絶えれば、遮るものが無くなった国を容赦なく襲うだろう。
「ちく、しょう……」
「……ゴメンね、ディアナちゃん」
「まだだ、俺はまだ……!」
「悔しい……」
会場の人たちが一人、また一人と地に膝を付け、天へ伸ばしていた手を地に向ける。
そしてついにベイン氏までもが力尽き、片膝を付いて蹲ってしまった。汗を滲ませた顔を力なく地面へと項垂れさせる。
「ユーハ殿、ディアナ殿、アイリス殿……早く、ここから離れるのだ……ユーハ殿?」
ベイン氏は、精魂尽き果てた声音で、それでも尚俺たちの身を気遣った言葉をかけてくれる。
が、俺たちの返答が無いことに気付き、ゆっくりと顔を上げた。
ベイン氏の声は聞こえてはいた。しかし、申し訳ないことにその時の俺は、返答するどころかその内容を考えてもいなかった。
俺とアイリスの視線は、確固とした視線で客席を見据え続ける、銀白の少女へと注がれていた。
その揺らぎのない眼差しに、夕焼けのような紅い瞳に宿る、強い煌めきに、俺は確信する。
問いかける。
「……いける、のか? ディアナ」
「はい。お任せください、マスター」
念のため、程度に投げかけた俺の問いに、ディアナは間髪無く答える。
こちらを向いた相棒の目を正面から見つめ返したことで、俺は再度理解した。今までに俺自身も体験してきたことだ。
窮地を切り拓く術を得た時に感じる、根拠のない自信。
決行前から成功を確信する謎めいた万能感。
今この時、ディアナもまたその感覚を抱いているのだと。
アイリスを見ると、彼女もディアナの様子に気付いていたようだ。俺の視線と合うと、笑みを浮かべて頷いて見せる……完全に俺の思い込みだが、その目が、「似たもの同士よね」と言っているように思えた。
……もしかしたら、俺も当時は同じような目をしていたのかもしれない。
そう思うとどこか気恥ずかしいような気になる。俺はわざとらしい咳払いで空気を変えると、銀白の相棒に改めて言い直した。
「じゃあ、やろう。ディアナ」
「はい――お力添えを。マスター」
穏やかに応じたディアナは、ステージの手前へと一歩踏み出し、力なくしゃがみこむマリーネ国民へ向かってマイクを取った。
状況の飲み込めていないベイン氏には、アイリスがお茶目にウィンクして見せているが……あれで伝わるかなぁ。ディアナの様子、たぶん俺とアイリスしか分かってないだろこれ。
案の定への字眉で首を傾げているベイン氏を余所に、ディアナが客席へと呼びかける。




