生け簀に刺し込まれる銛の気分②
あーくそっ! せっかく見つけたのに!
俺は対象をより広い視界で捉えるべく、袖からステージへと出た。
取り逃がした事実に舌打ちしつつ、それでもめげずに再び視線を巡らせる。アイツどっちに行きやがった。
それ以降、魔晶個体の通り道に漂う魔素の残り香を追いかけたり、発見時同様に特異点からの帰還時に補足したりと、見つけては見失うを繰り返す。
雲鯨たちは俺が魔晶個体を見つけたタイミングが分かっているのか、ほんの僅かにその姿を補足させたかと思うと、他の個体がすぐさまその場になだれ込み、あざ笑うかのように行方をくらませる。
メンドくさいなぁもう! ベロニカのトレントもそうだったけどさあ、お前ら魔晶個体はもっとトレイユの首長竜見習えよ!
アイツみたいに真っ向から勝負しなさいよ! 一対一で! そうすれば魔晶だけ回収してすぐ終わるのに!
……もちろん、魔晶個体たちが意地悪でこんな行動を取ってるわけじゃないってことは分かっている。
アイツらも動物だもんな。アレはただの生命活動に過ぎない。そりゃあ、食事中なんて隙だらけなタイミング、リーダーがやられないように工夫もするだろう。
そうとは分かっちゃいるけど、何て言うかこう、取れそうで取れないクレーンゲームをやらされているような、絶対に当たらないと決まっているガチャガチャをそれと知らず回し続けているような、そんな不快感を覚える。
それでも、何度見失っても再発見することを繰り返し、内なるフラストレーションが流石に限界に達しそうになったとき、俺はようやくその事実に気付いた。
……頭上を覆う結晶壁の色が、薄まっているような?
皿のようにしていた目を瞬かせると、上空に向けていた視線をライブ会場へ戻す。
会場から立ち昇る光の柱が、明らかに弱まっていた。
人々の中には、魔素を放出し尽くしたのか、その場に蹲っている姿もある。その数は決して少なくない。
結界の赤銅色が薄くなっていたのは、彼らの送っていた魔素が少なくなったせいだ、とこの時理解する。
「計算外だ……」
「ベインさん!」
ステージ上で一人、未だに空へ腕を伸ばし続ける男性の、弱々しい声が俺に届いた。
誰が見ても限界に達している様子だが、それでも懸命にサイリウムを掲げ、僅かな魔素を送り続けている。
「彼奴らの起こす嵐の勢いが、先日よりも強い……ここに戻ってくるまでに、相当量の魔素を食い散らして来たようだ……」
このままでは、結界が保たない。
言葉にはしなかったベイン氏のその訴えが、正しく俺にも伝わってきた。




