訓練されたファンのムーブをここに⑨
ディアナがすぅっと息を吸い込み、歌の第一節を言葉にする。
――そして、会場の空気が一変した。
ステージ上の小柄な少女がその口から奏でる旋律に、圧巻ならぬ、圧倒される。
なんという堂々たる歌いっぷりだろうか。
十代前半の見目幼い少女の歌声とは思えない程深みのある声音に、全身が総毛立った。
彼女の歌声の一節でも聞き逃すまいと身構える自分がいるのが分かる。
ただの息継ぎにさえ情緒を感じてしまう。
つい数秒前とは打って変わって、時が止まったかのように静まり返る会場。
そこに響き渡るのは、ステージの上で歌い続ける、銀白の少女の歌声だけ。
しかし、その場の誰もが感じていた。会場が静まり返ったのはテンションが下がったからではない。断じてない。
ディアナの歌声を聞き続ける今この時でさえ、胸にぽっと灯った火が、徐々に熱を強めていくのが分かるからだ。
どちらかといえばアダルティな、大人の女性が歌っている方がしっくりくる歌詞とメロディ。
そんな、純粋な曲だけのイメージに決して劣らず、どころかそれに勝って余りある表情と歌声を、ディアナは魅せていた。
時折見せる物憂げな眼差しや、溜め息の如く漏れる息継ぎに、思わずドキリとさせられる。
この曲においてディアナは、その重厚すぎとも言える曲調ゆえに、大きな動き・振り付けが少ない。
そして、それを補うのが今度はアイリスの番だった。
勿論曲に合わせ、激しいステップやターンといった、忙しない振り付けはしない。
しかし、緩急を織り交ぜ、歌詞や歌い手の表情に合わせたポーズをここぞというタイミングで披露してくる。
ドラマのワンシーンを見ているかのごとき情景に、観客全員が、やはり目を離せない。
その場の全員が固唾を呑んで見守る中、たおやかな旋律と共に、ディアナが最後の一小節を切る。
「……ご清聴、感謝致します!」
――ワアアアアアアア!!!!!
曲の終わりを示す言葉をディアナが述べるや否や、会場が割れんばかりの拍手と歓声に包まれる。
中には嗚咽にも聞こえる声もあった。ディアナの歌に中てられて、感極まっちゃったんだな、きっと……俺もちょっと涙ぐんでるもん。
ディアナは頬を上気させ、客席の後ろの方までをじっと見ていた。
ディアナも胸が一杯だろうなあ。目元を擦って相棒の晴れ姿を見守っていると、視線を戻してきた彼女と目が合った。
「最っ高に輝いてたぞ!! ディアナ!!」
にかっと笑って大きく青のサイリウムを掲げる。
この大歓声の中、きっと俺の声はディアナに届いてないだろう。
しかし銀白の少女は、俺の声に応えるかのように、瞳を潤ませて笑顔を見せてくれたのだった。




