訓練されたファンのムーブをここに⑦
ベロニカで出会ったときは、それが人の出す声かどうかも判別が怪しいほどだったが、今はちゃんとした『歌声』に認識できる。
時折声が裏返ったり、音程が微妙な部分もあったりするが、むしろそれすら、アイリス自身や観客たちは楽しんでいるようだった。もちろん、俺も。
どちらかと言えば女子の共感を多く得られそうな歌詞が多いけれど、そのポップ調なサラウンドが、観客の男性陣のボルテージも高いままにキープしてくれている。
そして、客席の熱を冷まさないのに一役買っているのが他ならぬ、アイリスのダンスパフォーマンスだ。
まさしく、圧巻の一言に尽きる。
そもそも今回の開催自体が急造なこと。それにあたって出演者たちの修得可否という点から鑑み、ライブ全体を通してのダンスや振付は、ごく簡素なものに留めている。
しかしそれは、アイリスのソロ曲以外の四曲についての話だ。
この三曲目。持ち歌をソロで披露するこの時だけ、金髪のアイドルは、己の持てる全てを惜しげもなく曝け出す。
ベロニカで見た時よりも更に洗練されたステップ。
見た者を魅了し、見ていない者の視線さえも惹き付け、逃さない。
彼女が一歩踏み出す足音に心揺さぶられ、身を翻す姿に目を奪われ時を忘れる。
ある者はその美しさに嬌声を。またある者はその練度に息を呑む。
アイリスの持つ、一転の曇りも無い金髪とが相まって、さながら天使の舞踏とも見える演舞に、会場の全員が釘付けだった。
……さて、そんな中、ディアナはと言うと、所々でアイリスの歌声にコーラスを加えたり、オクターブ違いの歌声を重ねるなどして、アイリスのパフォーマンスをより重厚かつ印象深いものにアシストしていた。
ソロ中は完全にフリーになるので、次の出番まで小休止でも良かったのだが、互いのソロでの立ち回りはこうしようと、二人は決めていたのだ。
普通に歌うよりも繊細なコントロールが求められる作業を苦とせず、ディアナとアイリス共に、互いをサポートし合う選択を選んでくれた。そのことが、なんだか嬉しいような誇らしいような、こそばゆい気持ちだ。
二曲目よりはコールを挟む箇所は少ないながらも、アイリスは会場の熱気を更に高みへ誘い、見事ソロ曲を歌い終えた。
俺とベイン氏含め、観客の全員の歓声でライブ会場が湧き上がる。
立て続けに三曲を歌い、凄まじいクオリティのダンスもあり、流石に体力を消耗した様子で、肩で息をするアイリス。
それでも尚、右手で作ったピースサインを頬に寄せ、ウィンクと共に満面の笑顔を見せた。




