訓練されたファンのムーブをここに⑥
……ベイン氏が俺の真似をして横に立ってくれたおかげだ。
俺一人で最後まで声援を送り続けても、きっとこうはならなかったろう。
危機的状況の中にある国を支え続け、国に訪れる崩壊を防ぐべく、日々骨身を砕いている。
そんな彼の行動だからこそ、国民たちも「自分も続かねば」と心を揺さぶられたのだ。
更に言うなら、皆を誘導できた要因は、もう一つ。
「これは、なんだか……楽しい、な! 楽しいかもしれない!」
ベイン氏が、傍目に見ても分かるほどの笑顔でコールしてくれたことだろう。
そう、楽しいんだよな。コールすんの。
俺はまだ現地参戦したことは無く、せいぜいがネットでアーティストのライブ映像を見たくらいだけど、みんな楽しそうだなあだと思ってたんだ。
コールが揃う一体感。
すぐそこにアイドルがいるというライブ感。
皆でこのライブを作り上げている。自分もその一員なんだという充足感。
全部が組み合わさり、噛み合って、ただただ只管に楽しくなる。
気付けば夢中になって声を出し、腕を振ってた、って、SNSで呟いている人もいたっけ。
今、この会場もきっとそんな感じなんだろう。
俺も、ベイン氏も、マリーネの国民たちも。
皆、青と黄色のサイリウムを手に持ち、思い思いに振りながらディアナたちへ声援を送っていた。
もう俺が先導してもいないのに、ある程度コールが揃っているのだから驚きだ。場の空気を感じ取る力……俺が荒天島で魔晶個体と相対した際モノにした技術を、既にこの国の人たちは身に着けていたのかな。
あ、よかった。周りにぶつかりそうなほどグルグルしてる人はいないわ。
ちなみにこのサイリウム、実は芯材の一部に、ガランゾで回収した魔晶を使っている。
長雨に捕まっている間に、既に内在する魔素を回収し終えていたのだ。
空になった魔晶は、もう自発的に魔素を吸収し続けることは無い。そういった、通称『魔晶鋼』は、俺の短剣リーファライトのような武具に加工する以外にも、魔素を流したり纏わせるための素材として見ても結構優秀だ――
そんな話をアイリスに聞いたので、そういうことならこれ幸いと、少量の魔素で長く使えるような、誰でも使いやすいサイリウムの材料となってもらったのだ。
配布前にある程度の魔素を充填してあるため、ボタン一つ押すだけで程よい明るさに光り輝く。
魔素が無い俺でも扱える安心設計だ。
「はーいっ☆ 次の曲はー、アイリスちゃんのソロだよー!」
金髪の少女の呼びかけに、イェェーイ!! と、背後の人波が声援を爆発させる。
三曲目は、かつてベロニカでアイリスが披露していた彼女のテーマ曲、『渚の魔法少女』。
ベロニカ国の宮廷魔術師にしてアイドルという、自称ながらも二足の草鞋を履いた生活である彼女の視点から、お化粧・お料理・お仕事などで、目まぐるしい日常を送る女の子の日々をテーマにした曲だ。




