異世界人ってみんな優秀なの?⑪
そうと決まってからは早かった。
アイリスはアイドルのライブによる士気高揚効果、効率の良さ、ついでに将来的な経済発展への期待を織り交ぜたプレゼンをベイン氏に行い、傍で聞いている人間には目が回るような舌戦の末、最終的には彼の合意を得た。
その緩急織り交ぜた会話術と交渉力は、もっと他に活かせる場があるような気がしないでもなかったが、ともあれライブの開催は三日後の昼に決まった。
会場は王城前の広場。今は瓦礫が散乱しているが、そこはベイン氏から兵士たちに命じてスペースを確保してくれると言う。当日のスタッフとしても何人か回してくれるそうだ。
ライブ開催の決定だけじゃなく労働力まで取り付けるとは、とんでもない自称アイドルだ。
……まあ、その交渉を後押ししたのは、俺がルナちゃんの仕事内容をアイリスに教えたせい、っていうのもあるんだろうけど。
開催当日まで、準備期間は僅か二日。会場設営の他にも、決めること、やらなければいけないことは山のようにある。
メインの出演者は、言い出しっぺのアイリスは当然のこと、ディアナの計二人。
会場までの話を取り決めたアイリスは、滑らかな足運びで俺のポケットからスマホを抜き取り、未だに状況が飲み込めていない様子のディアナを引っ張って、猛スピードでどこかへ駆け出して行ってしまった。
おそらく、歌とダンスの調整に向かったのだ……本来なら何ヶ月もかけて行うべきものを、たった二日でやろうと言うんだ。早足にもなるだろう。
俺に与えられた役割は、アイリスとディアナの最終調整、演出内容の企画、そして告知だった。
ベイン氏にチラシの作成と、とあるグッズの製造を相談。アイドルを知らないエーテルリンクの住民にも伝わるよう、簡潔かつ大胆なレイアウトを模索し、数時間でチラシの雛型が完成する。
増産と配布を手空きの兵士さんに指示してもらい、グッズ製造の進捗連絡を受ける。
素材の加工が難題ではあったが、内容自体は比較的簡単だったため、明日の夜には仕上がりそうだとの報告を聞き、胸を撫で下ろした。
完成品が出来たら持ってきてもらうよう言付け、俺は急ぎ足で二人の少女の下へ向かった。
輪を周す日は既に傾き、早くも準備期間の一日目の終わりが近いことを示している。
ここまで勢いに流されるまま行動し続けてきた俺の中に、振り返る暇も無かった不安がじわりと込み上げてくる。
……本当に、上手くいくんだろうか。
そんな心持ちが顔に出ていたのかもしれない。
二人は王城の中庭、四方を壁に囲われた半個室の空間でレッスンをしていた。
そこに顔を出すなり、アイリスに端的に叱責された。




