異世界人ってみんな優秀なの?⑩
正直、俺も同感だった。マリーネの人たちは抜け殻のようだった。あんな様子では、協力して魔法を発動するなんてとても……
ベイン氏に続いてそう告げようとした俺の瞳には、しかし「その返答を待ってました!」と言わんばかりに煌めくアイリスの双眸が映る。荒天島からの帰還時、ベロニカ王に大目玉を食らっていたのを誤魔化した時と、同じ眼差しだ。
……よからぬ予感がするぞ。
「ベインさん。次に雲鯨がやって来るのはいつ頃ですか?」
「次? ……そうだな、三日後辺りだろう。それを最後に、彼奴らはエーテルリンク全土の回遊に移る筈だが」
「三日……ギリギリね。でも、やって見せようじゃない」
「おいアイリス。何を企んでんだ」
耐えかねた俺は、神妙な面持ちでうんうんと頷くアイリスに指摘する。
答えを聞くのが怖いという気持ちが強いが、そのまま放置して爆発されるほうがもっと怖い。
さっきの話の流れだと、マリーネの人たちが結界魔法を発動出来るような、士気高揚の奥の手でもあるんだろうか。
「ユーハ、アタシを誰だと思ってるの?」
訝しげに見つめる俺の視線に対し、金髪の少女はふふん、と得意げに鼻を鳴らして髪をかき上げた。
「さっさと言え」
その仕草にイラッとしたのでデコピンを食らわす。
「あたっ……んもう、忘れたんじゃないでしょうね? アタシはアイドルよ。このエーテルリンクにおいて唯一にして至高のね。だったら、やることは決まってるでしょ?」
……それで言うとディアナはアイドル候補生、みたいな感じかな。今のとこ。
至高かどうかはともかく、アイドルの概念が無いこの世界でオンリーワンのアイドルであることは、まあ、そうだな。自称だけど。
少しだけ脱線した俺の思考が、アイリスの言葉を反芻した途端、瞬時に一つの予測を弾き出す。
「お前……まさか」
絶句する俺の様子で自身の意図が伝わったと気付いたらしく、アイリスが殊更に得意げな表情を浮かべた。
「分かった? トレーナーであるアンタにもキビキビ働いてもらうんだから、覚悟しときなさいよね。ま、主役はアタシとディアナだけど」
「わ、私もですか?」
「もちろん! アタシのユニットメンバーなんだから当然よ!」
「すまない、話が見えないんだが……」
ずっと眉を顰めていたベイン氏が控えめに手を上げた。ああいやすいません、俺もちょっと混乱というか、放心していたというか。
仲間内で勝手に進めていた話を伝えるべく、提案者……いや、企画発案者にして、メインキャストであるアイリスが答える。
「ライブをしましょう」




