異世界人ってみんな優秀なの?⑨
凄まじい勢いの呼吸と、それによる嵐を呼ぶという魔晶個体。思い返されるのは第二の特異点、荒天島を取り囲んでいたあの嵐のことだ。
あの嵐に真っ向から突っ込んだ俺たちは、突破するどころか脱出するのにさえ苦労した。
ディアナが冷静に状況を判断していなければ、命が無かったと思わせるほどに強力な嵐だった。
もしもクジラたちの嵐が荒天島に匹敵するほどの勢力だったら……突破のための抜け道を模索しているうちに、マリーネは甚大なダメージを受けてしまう。
「そうか……君たちの響心魔装は機動力に特化しているのか。過去には、地上から嵐を強引に貫通するほどの心技を叩き込んだ猛者もいる、という例があったから、もしやと思ったが……」
「嵐が弱まったタイミングでの突入、戦闘なら任せてもらって構わないんですが」
そのタイミングを見極めるだけの時間があるだろうか。それまでマリーネは耐えられるだろうか。
俺とディアナ、ベイン氏が一様に唸り声を漏らす。
「――一個だけあるわよ。時間稼ぎの方法」
不意にそう呟いたのは、傍らの金髪の少女だった。
驚いた俺は、自称アイドルの少女、アイリスへ視線を向ける。彼女は外向けのアイドルスマイルではなく、自身本来の勝気な性格をその目に湛えていた。
ベイン氏がアイリスに先を促す。
「その方法とは?」
「マリーネの人たち全員で、結界魔法を張るんですよ。さっき国の中を通ってきたときに気付いたんですけど、この国の人たちって、保有する魔素の量がかなり多いんです。その魔素全部を一個の魔法に集約すれば、神位魔術師並みの結界を展開出来るはずですよ」
右手の人差し指を立て、そう解説するアイリス。
確かにマリーネの住民は、ベロニカやガランゾの国民たちよりも遥かに多い量の魔素を体内に有しているようだった。
宮廷魔術師であり、常人より魔素量の多いアイリスに、マリーネ住民が二、三人いれば追い付けるくらいの量だ。ベロニカやガランゾの国民たちだと、最低でも十人は必要になるだろう。
雲鯨の一度目の来訪で多くの命が失われたとはいえ、生き残った人々全員の力を合わせれば、魔晶個体の起こす嵐をも耐え凌ぐ結界が作れる。その見立てはおそらく正しい。
理屈だけなら、今彼女が提案した手段は最適解と言えるが。
「それは無理だ。今、国民たちは衰弱しきっている。そんな状態では複合魔法を発動するどころか、充分な魔素を放出することすら難しいだろう」
ベイン氏も同じ手法を考案したことがあったらしいが、国民の現状を鑑み、やむなく破棄するほか無かったと言う。




