異世界人ってみんな優秀なの?⑧
「厄介なのは奴らの噴気なのだよ。とんでもない巨体と個体数の雲鯨たちによる噴気は、家々の屋根を吹き飛ばし、天候が乱されて訪れる大嵐は壁を薙ぎ払った。それなりの強度で拵えていたこの国の家屋と言えども、ご覧の有り様なのだ」
ふんき……潮吹きのことだろうか。クジラの呼吸のことだな。
クジラが水面近くで呼吸する時に、潮を噴き上げるように見えることからそう言われてる、とかが由来のはず。
空中ならば水は無いから、水圧による影響は無いだろうが、単純に空気圧そのものが強烈なのだろう。
ふーむ、と口許に手を当てる俺。近付くのも手こずりそうな相手だ。どうやって攻略したもんかな。
一人シミュレーションを始めた俺の前で、気付けばベイン氏が深々と頭を下げていた。
一瞬、何が起こったのか理解出来ず膠着する俺。周囲の空気も固まったようにさえ思える。
「ちょ、ちょっとちょっと、どうしたんですか」
慌てふためくアイリス。戸惑いを隠せないのは俺だけじゃなかったようだ。
「この国を代表し、亡きマリーネ王に代わって御頼み申し上げる。ユーハ殿、ディアナ殿、アイリス殿。どうか、この国を救うために、力を貸して頂きたい」
アイリスの呼びかけが聞こえているはずだが、ベイン氏はきっちり直角に腰を折ったままそう告げた。
「亡き、って……」
「……マリーネ王は、先の魔晶個体らの回遊時に崩御された。運悪く、真っ先に崩れた天井が接触してしまったのだ」
その時に亡くなったのは王だけではない。各政務を取りまとめる大臣たちも、城の外の一般住民たちも、多くの人がその命を散らしてしまった。
そんな今、存命の人間の中で最も階級が高いのがベイン氏であったために、彼が国務の全てを取り仕切っているのだと言う。
「数多くの民が神々の下へ旅立ってしまった。人も、街も満身創痍であるが故か、生き残った民は皆放心状態だ……これではとても、次の雲鯨たちの回遊には耐えられない。彼奴らの蹂躙が成される前に、魔晶個体を討伐して欲しいのだ」
「それは、勿論、構わないですけど……」
言葉が尻すぼみになる。魔晶個体の撃退、ひいては魔晶の回収は俺たちの当初の目的でもある。
矢面に立って相対することは、むしろこっちからお願いしたいくらいだ。
だけど……
「ベイン様。魔晶個体と戦闘することには何も問題はございませんが……マリーネに被害が出る前に事態を収束する、とまでは、確約致しかねます」
俺の言葉を引き継いだディアナの回答に、ベイン氏はゆっくりと顔を上げた。
そう。俺が懸念していたのもそのことなのだ。




