異世界人ってみんな優秀なの?⑦
「こんな状況で申し訳ない。今、少しバタバタしているものでね」
そう呟くベイン氏の顔には濃い疲労の色が浮かんでいる。これもまた、他のマリーネの人には見られなかったものだ。
バタバタしている、とは言うものの、正直街中の人たちはとてもそうは見えなかったけど。
「何があったんですか?」
「……本来なら内輪の話をするものでもないんだが、君たちにも関係の無い話ではないか。国の様子は見たろう?」
問いかける俺に一瞬口を噤んだベイン氏だったが、考え直した様子で再び口を開いた。
頷く俺たち。やはりこの人は、他の人たちと違って、今のマリーネの内情を常のものとは捉えていない。
「傷ついた国壁。倒壊した家屋。崩れた玉座の間……これは全て、今代の魔晶個体による災害が原因でね。こうなってしまったのは、つい数日前のことだ」
そう告げたベイン氏の表情は、とても苦々しいものだった。
曰く、マリーネの管理する特異点には、毎度決まった種族の魔晶個体が現れるらしい。
長年の経験と先人たちの残した記録により、その魔晶個体がマリーネに及ぼす影響については一通りの対策が確立され、人々は魔晶回収の時期になっても、普段と何一つ変わることなく平穏な日々を過ごしていたそうだ。
しかし、今回現れた魔晶個体は、今までのそれと毛色が違った。
魔晶個体を発見した宮廷魔術師の報告によると、外見や、宿した魔素の量は従来のものとそう変わらないが、引き連れる『群れ』の数があまりにも膨大だったと言う。
「群れ、ですか?」
ディアナが眉を顰めて言葉を繰り返した。ベイン氏は険しい表情のまま深く頷き、それこそが最悪だったのだ、と話を続ける。
「過去に訪れた召喚者の呼んでいた呼称を頂き、雲鯨と言われるその魔晶個体は、常に複数匹の同族を従えた、『群れ』を成して現れる。魔晶を持っているのは統括する一体だけだが、取り巻きも図体は魔晶個体と何も変わらない……そんなものが、空の一角を黒く塗り潰すほど現れたのだ」
過去の記録では、多くても十体や二十体がいいところだったと言う。
召喚者……俺と同郷の人間がクジラって言ったくらいだから、小さくても四、五メートルはあるよな。
大きな種類だとその倍、三倍。いや、更に巨大な体長のものもいたはずだ。
それが大群で押し寄せてきたところを想像し、思わず身震いしてしまう。
「とはいえ、彼らが物理的に国を襲うことは無いんだ。雲鯨たちの目的は、マリーネ上空の特異点に漂う濃い魔素を捕食することだから」
ぞっとした表情で身を震わせた俺を気遣ったのか、少し優しい声音でベイン氏が説明を続けてくれる。
その優しさに感謝し「そうなんですか」と答えつつ、では建物がみんなボロボロになってしまったのは何故だろうか、と疑問符を浮かべる。




