異世界人ってみんな優秀なの?⑥
マリーネの王城内は閑散としていた。
街中の家々と同じようにところどころ崩壊しており、人気が少ない。
兵士の姿はある。しかし皆一様に生気のない様子で、『とりあえず持ち場についている』感が凄い。
実際、ズカズカと上がり込んだ俺たち三人に対し、入口横の兵士は横目で流し見ただけだった。
それ以外には特に取り押さえる様子も、かといって歓迎して中を案内するような素振りもせず、すぐに視線を戻した。
やる気が無い、とは少し違うように思えるその様子に、戸惑いながら城内の階段を上っていく。
「……あれ?」
お決まりの玉座の間らしき部屋に辿り着いたが、なんとそこは無人だった。
部屋間違えたかな。んーでも、あの立派な椅子って王様が座るやつ以外に無いよな。
唸る俺の背後から顔を出したディアナが、頭上を仰いで指を差す。
「マスター。あれを」
「ん? ……ここも、か」
相棒の白い指が指し示したのは、大きな穴が空き、がらんどうになった天井だった。
よく見ると、玉座の間の隅に、崩れた天井のものと思われる瓦礫が積み上げられている。
まさか……この天井が崩れた時、マリーネの王様は。
俺がそこまで思考を飛躍させた時だった。
「おや……君たちは?」
背後から男性の声がかけられる。
振り向くと、ダンディな髭を蓄えた四十代ほどの男性がこちらを見つめていた。
簡素ながら手入れの行き届いた衣服を身に着けており、上品な印象を受ける。
眉間に寄った皴が気難しそうなイメージを与えてくるが、厳かで深みのある声音が、同時に穏やかな気持ちにもさせてくる。
生気の感じられない他の国民や兵士たちとは違い、普通の人、のようだ。
男性は、向き直った俺の担ぐスクールバッグに視線を移すと、そこに下がっている銀色の装飾品を見て、「ふむ」と一言呟いた。
「トレイユの銀国紋。そうか、君たちが今回の召喚者一行だね。過去の事例より随分と早い到着だが……そうか、そんな時期だったか」
「あの、あなたは?」
「失礼。私はこの国の財務を受け持っている、ベインという者だ。こんな様相で済まないが、マリーネへようこそ」
ベインと名乗る男性は、シブい声で歓迎の言葉を述べると、右手を差し出してきた。
慌てて俺も名乗り、右手で握り返す。がっちりとした手の感触に、長年この国を支えて来たのだろう年季を感じる。
ベインはアイリス、ディアナの順に握手を続けると、少しだけ眉尻を下げて口を開いた。




