いよいよチケット販売会社以外に止められない⑤
心身ともに擦り減った様子で、満足に会話すらままならない状態のグゥイを連れ帰ったスプリングロードゥナは、ほぼ強制的に彼女を休ませた。
長い時間をかけ、生活するのに問題ない程度にまで回復したところで、このままガランゾに腰を据えないかと話を持ち掛けた。
グゥイはその提案に頷き、それから今日に至るまで、彼女は女王に仕えている。
「今ならもしかすれば、当時何があったかを聞くことは出来るのかもしれないが……私から精神的外傷をほじくり返すほど酔狂でもない。それにそんなことをしなくても、今やグゥイはこの国に、私にとって欠かせない存在だからな。過去に何をしていようが今更逃がさんぞ?」
「はは、そりゃ確かに」
少しおどけた調子でそう口にしたスプリングロードゥナに、つられて俺も笑みを浮かべる。
やっぱりこの人もいい人だな。
確かに、魔装形態のグゥイを装備した時の女王の戦闘力は途轍もなかった。もう二度と相対なんてしたくない。
「仮にも神位魔術師である私を下したお前らだ。魔晶個体程度なら相手にもならんだろうよ! 次の特異点に進むなり好きにすればいいさ」
「……本気じゃなかったくせに?」
カマかけのつもりでそう返答してみる。
あの戦闘、絶対にスプリングロードゥナは本気じゃなかったと俺は思う。
この人が本気で『勝ちに』来ていたとしたら、その埒外な量の魔素を全て焔に変え、あの広間を火炎で埋め尽くすくらい出来たはずなんだ。炎熱で体力を奪い続けるとか、もっと強制的に命令に従わせる手段は他にもあった。
だけど女王はあくまで白兵戦に徹し、こっちに反撃する間も与えないような展開にはしてこなかった。
明らかな隙でも殺しには来なかったしな。そうでもなきゃ、ろくに体を鍛えてもいない現代日本の男子高校生が生きていられるわけない。
そういう展開にしなかったのは、最初から召喚者側の自由意思に任せるつもりだったからじゃないのか?
自分や、部下や、国民の精神を魔法で操作している、心魂奏者と同じようなことをしたくなかったんじゃないのか?
俺の深読みし過ぎとも言える問いに女王は、
「さあ、どうかな?」
先日のような美しさとふてぶてしさを兼ね備えた横顔で、にかっと歯を見せて笑うのだった。




