表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

188/673

いよいよチケット販売会社以外に止められない①

ゆっくりと開いた目に映ったのは、石造りの天井だった。


脳が正常稼働するまでぼんやりと見上げ続けた天井は、夕闇の薄暗さに染め上げられている。

窓の外に見える空には、見慣れた夜天が広がっていた。


惰性と言うか習慣で外の天気を確認してからようやく、自分が迷宮(ダンジョン)を脱出して、早々に気を失ってしまったことを思い出す。


それまで横たわっていたのは、昨日女王からあてがわれた一室の、ベッドの上だった。


ベロニカでもそうだったが、王城内の部屋というだけあって、客間でさえも一級品の家具が(しつら)えてある。そのレベルの寝具ともなると、それこそ時間を忘れそうなほどに寝心地が良い。


そんなベッドの上で身を起こすと、右腕が引っ張られて動かないことに気付く。


見ると、俺のシャツをきゅっと握り締めながら寝息をたてるディアナの姿があった。

背中を丸め、穏やかな顔で寝入っている。


愛らしい様子に思わず笑みを漏らし、ゆっくりとその頭を撫でた。どこか心地よさそうな表情になったような相棒の手をそっと開き、服の袖からシーツの上に寝かせる。


どうやら起こさずに済んだようだ。ディアナの寝ていない方に、音を立てないよう慎重に手をついて、ベッドから降りようとする。


左手が、むにゅ、という今まで感じたことのない弾力に包まれた。


「んむ」


それと同時に、違和感に声が漏れた、といった感じの声音が聞こえてくる。


むにゅ?


「え」


アイリスが寝ていた。


ディアナの寝ている反対側。俺の左隣で、金髪の少女が仰向けになって瞼を閉じている。

その顔は曇っており、なにやら外部からの刺激に耐えているかのような表情に見えた。


そんな彼女の胸――大きすぎず、形が良い――を、俺の左手が鷲掴んでいる。


一瞬の硬直ののち、事実を認識した俺の頭の中が真っ白になった。うわあああと叫びながら飛び跳ねそうになるのをひたすらに堪える。


そんなことをしたら、アイリスが目を覚まして怒りを大爆発させるのが目に見えている。事故なのに。


俺は左手をがっちりと硬直させた。そこだけ時間を止めたのではと思える程にだ。


僅かにも動いてしまえば、少女が目を覚ましかねない。その恐怖の可能性が、女王と単独で対峙した時以上に俺の神経を研ぎ澄ます。


手のひらが伝え続ける得も言われぬ柔らかさを意識の外に放り投げつつ、ナメクジが這うような速度でゆっっっくりと手を浮かせた。アイリスの表情が平穏を取り戻し、落ち着いた寝息をたて始める。


その緊張感を維持しつつ慎重にベッドを下りた俺は、傍の椅子にかかっていた上着をひったくると、声にならない叫び声をあげながら全力疾走で客間を後にしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ