金銀輝煌⑩
やった、のか……? 思わず口を突いて出そうになる歓声を、鋼の意志で堪えた。
ここで「やったか!?」なんて言ってみろ。今は崩れた壁の向こうで姿が見えないが、あの暗闇をかきわけて、平然と女王が体を起こす未来が確定する。俺はふらつく体で慎重に様子を窺った。
十秒ほども待つが、スプリングロードゥナが姿を現す気配は無い。
女王の溢れんばかりの魔素や、響心魔装たるグゥイを行使する際の心素の動きも感じられない。
……これはどうやら、本当に。
「やっ、たぁーーーーーー!!!」
俺が胸を撫で下ろすよりも早く、アイリスが諸手を上げて飛び跳ねた。
いつの間にやら魔装状態を解除しているディアナの手を取り、くるくると回っている。
困惑しながらも微笑む相棒と、満面の笑顔で舞う金髪の少女の姿に、ようやく俺も全身に張り詰めていた緊張を緩めた。
その途端、足に力が入らなくなった。
「あ」
ヤバい。いい加減限界だ。
大きく傾いた俺の身体は、受け身を取る余裕も無いまま、慣性に従って迷宮の床に倒れ込んだ。疲労に加え、全身に重度の火傷を負っていた事実を今更ながら思い返す。
勝利の余韻に浸っていた二人の少女が、血相を変えて駆け寄ってくる。
「ま、マスター! しっかりしてください!」
「アンタ……よく見たらズタボロじゃない! 早く言いなさいよバカ!」
うつ伏せに倒れ込んだ俺の身体をディアナが仰向けに起こした。胸に触れたアイリスの手から、じわりと熱が広がっていくのを感じる。
ベロニカの荒天島でディアナに施した、自然回復力を高める魔素を流し込んでくれたのだろう。
「サンキュー……」
口から出た感謝の言葉は、自分でも驚くほどに弱々しいものだった。
しかしこの処置は、発動して即座に傷や消耗が回復するものではなく、時間経過とともに徐々に効果が大きくなるタイプのものだ。しばらくはまともに動けまい。
出来れば、いつスプリングロードゥナが復活するとも知れないこの広場に留まりたくはない。
今にも閉じそうな瞼を懸命に押し上げ、壁に埋め込まれた魔晶をちらと見る。そしてディアナを一瞥すると、頼りになる相棒はそれだけでこちらの意を汲んでくれた。
「アイリス様。マスターのお身体が心配ですが、今は魔晶を回収し、ここを去りましょう」
「え、でも、どうやって? ぶち抜いてきた床の穴を昇るの?」
「いいえ。アレを使います」
ディアナが指差したのは、魔晶の埋め込まれた壁の少し手前の空間。正確には、その辺りの床だ。
よく見ないと分からないが、そこには魔法陣があった。
そう、スプリングロードゥナとグゥイがこの広間に転移してきたときに使った、あの魔法陣だ。




