金銀輝煌⑦
魔法を打ち消す闇夜神路の効果により、スプリングロードゥナの神技が大幅にその勢いを削がれる。
それでも到底、今の俺では受け止めることが出来ないほどの威力を有しているだろうが。
驚愕に目を見開きつつも、微塵も退かずに突き進む女王の槍が、俺の握る霊剣に衝突する――
その瞬間、紅蓮の槍と白の霊剣との間に、見慣れた夜色の刃が割り込んだ。
激突による凄まじい衝撃と金属音が響き渡り、夜剣が押し込まれる。俺は両手で霊剣を握り直し、夜剣を受け止める姿勢に入った。
両腕に尋常ではない負荷がかかり、踏ん張る両脚が迷宮の床を擦る。
数メートルほども押し込まれ、背後の壁に接するギリギリのところでようやく勢いが止まった。
目の前で、迷宮内の薄暗さも跳ね除けるような金色の髪がふわりと舞う。
「ディアナ、アイリス……!」
『マスター! ご無事で何よりです!』
「ま、間に合ったみたいね! あっぶなー……」
頬に冷や汗を流しつつも、しっかりと夜剣たる相棒を握り締める、アイリスの姿がそこにあった。
成功、したんだな……!
ディアナを魔装形態へ変じさせ、闇夜神路も放つことが出来たということは、少女二人の間で生命回路を新たに繋ぐことが出来たということだ。
先ほど女王に否定された目算が成就した事実と、生死の瀬戸際で命を拾ったこととが相まって、全身から力が抜けそうになる。
へろへろと座り込んでしまいそうな足腰に活を入れる。まだ終わっちゃいない。気を緩めるのはこの薄暗い穴倉を脱してからだ――
気を入れ直したところで、拮抗していた刃の鍔迫り合いが急激に劣勢に傾く。
見ると、間近で槍を握るスプリングロードゥナが、驚きを隠せない表情で藤槍に力を込めていた。
「馬鹿な……! どんな手を使った!」
実力差が歴然だった女王の狼狽する姿に気が大きくなったのだろうか、アイリスが得意げな表情を作る。
「ふ、ふふん、驚きました? これが私たちの奥の手! 何せ私たちは相性バッチリのユニットですから――」
「ええいそんなことは聞いていない! 本来の主が存命の中、どんな手品で新たな契約を結んだんだと言っている!」
アイリスが言い終わる前に、スプリングロードゥナが苛立った声を挟み込む。
ドヤ顔のウザさが癇に障ったんだな。分かるぞ。
こんな場面でなければ、俺でもデコピンの一つもくれてやっていたところだ。




