金銀輝煌⑥
つと双眸を伏せたスプリングロードゥナは、ほんの僅かな間、過去の己の黒歴史を思い返すかのような、面映ゆい表情を作る。
「……さて。そろそろ終わらせよう」
そして、俺がそれに気付いた途端に瞼を開いた。
「っ!」
「あ奴もそうだったが、お前の頑固さはそれ以上だ。心素を多く持つチキュウ人は皆そうなのかもしれんが……このままだと、お前は手足が千切れても先に進むだろ?」
だから――この一撃でお前を妥協させよう。
その、藤槍を展開した時と似た文句と共に、これまでの比では無い量の魔素が、女王の右手に握る槍に飲み込まれていく。
同量の魔素で火尖槍を放てば、容易くこの部屋を吹き飛ばせるだろう。既にそれだけの量が納められ……尚、勢いは止まらない。
彼方から響いてくるようなグゥイの声が、轟く魔素の暴風を越えて俺にも届く。
『魔素接続、上位承認……響心率、二〇〇パーセントに到達』
「――ソウルドライブ」
聞き慣れない式句が立て続けに聞こえ、その都度、槍に宿る魔素が膨れ上がる。
一瞬、破裂しそうなほどに膨らんだ魔素の塊が、急激に収束した。凪の海上のように穏やかになる……完成した威力をその内に秘めていると一目で分かった。
深い藤紫色の突撃槍が、持ち手の魔素の性質によると思われる力により、白熱を越えた、激しい紅蓮色に染め上げられる。
スプリングロードゥナと、グゥイの声が、重なる。
「『紅蓮槍姫!』」
唱えられた最後の言葉が、女王とその魔装とを、一個の強大な『槍』へと変えた。
炎熱という言葉では足らない程の苛烈な焔を纏い、一直線に俺へと向かってくる。
直撃するまでもない。まともに受ければ、穂先が触れただけで身体の水分は蒸発し、刺さる頃には炭と化し、貫き通れば塵となって跡形も無く消え去るだろう。
そんな、黒刺夢槍を遥かに凌ぐ絶後の神技が迫ってくる中、俺の意識は、何度か体験したことがあるようなコマ送りになって流れていた。
走馬燈ってやつかな。眼前に迫る紅蓮の槍が、ゆっくりと、少しずつ距離を詰めてきているように感じる。前にこの感覚になったのは、荒天島でヒュージトレントに反撃した時だったか。
右手の白い霊剣を見る。近付く紅蓮に照らされ、どこか淡い桜色にも見える刀身が、一瞬きらりと光ったように思えた。
造ってもらったばっかなのに酷使し過ぎとは思うが、もうちょっとだけ付き合ってくれよな。
ズタボロの身体を動かし、紅蓮の槍を受け止めるような位置で霊剣を構えた。
そうだ、最後まで諦めない……だよな、ディアナ。
あと一秒も無いうちに、槍の切っ先が霊剣に接する。
そう思い、身体に力を入れた瞬間。否、そうしようとした刹那。
「『――闇夜神路っ!!』」
背後から飛び出した夜色の波動が、俺を通り越し、迫り来る紅蓮の槍に直撃した。




