金銀輝煌⑤
「先の話では一つ嘘を言った。魔晶の魔素を何に使っているか、凡その見当はついている――世界規模の精神操作魔法だ」
「精神……操作?」
「そうとも。それもとびきりの、それこそ私も操られてしまうほどに強力な、だ」
その恐ろしさは、世界規模という効果範囲の広大さ、神位魔術師にも効果が及ぶ強力さのみならず、『自覚症状が無い点』だとスプリングロードゥナは語る。
「なにせ、五年前にあ奴の手を借りるまで、私は術をかけられている自覚が全く無かったのだからな。これでも神位を冠する魔術師である以上、多少は耐性があると自負していたが、相当衝撃を受けたさ」
スプリングロードゥナがあのクソイケメン魔術師を疑うようになったのは、『あやつ』とかいう人に手助けされてからだと言う。
さっきの話で述べていた、魔術師サンファが陰謀を企てているとする話は、実は順序が逆だった。
『それらの根拠があるから』サンファが容疑者として浮かび上がったのではない。
『サンファを容疑者とした前提で見たことで』いくつもの根拠が芋づる式に引き当たるのだ。
奴の精神操作は、そういった、通常なら気付くことの出来るような点や、引っかかるはずの違和感をスルーしてしまう魔法だという。
「考えてもみろ。何故わざわざ、戦闘や魔法に関して畑違いな異界の住人を招き、従事させる必要がある? 私たちのような神位魔術師が出張れば済むことだろうが」
……それは余所の国々への影響力とかもあって容易ではなさそうだが、究極的にはその通りだ。
サンファは俺に、『魔晶個体は、特異点から無尽蔵の魔素を吸収するため、魔素量のアドバンテージが取れない魔術師では、魔晶回収が難しい』と説明していたような気がするが、互角以上の魔素量を保有し、戦略立てて戦える神位魔術師がいれば、魔晶回収は決して不可能じゃない。
数が必要だろうが、宮廷魔術師を大勢動員しても同じことが出来るだろう。
実際に戦闘職の神位魔術師と立ち会った今ならそれが分かる。
それをサンファは、世界中の人間に魔法をかけてまで、地球の人間を召喚し続けているのだ。
そうしているのが何故かについては本当に分かっていないが、とスプリングロードゥナが嘆息する。
「五年前、当然、あ奴にも声はかけた……だが奴は、『娘の夢のために長くはいられない』と言い、危険を承知で行ってしまった。それから私たちは、あの狐の目を盗み、証拠を集め、準備を整えた。そうして協力を要請した初の召喚者が、お前たちというわけだよ」
娘の夢のため、ね……
あやつって、ベロニカでも聞いた、心素を使った魔法を開発したっていう、俺の前任の召喚者か。
サンファの精神操作魔法を解除できたのも、その魔法を使ったんだろう。




