金銀輝煌①
背後の通路の向こうから鳴り響いた破砕音に、思わず私は立ち止った。
突き当りを左に折れた通路の向こうから、広間から溢れ出たと思われる砂煙の一部が漂ってきた。
つい数分前に紙一重で回避した、女王の炎熱魔法を思い出す。
……大丈夫。大丈夫だ。砂煙が巻き起こったということは、壁や床が破壊されたということ。
マスターがやられてしまったわけじゃ、ない――
「――アナ! ディアナ! ちょっと聞いてるの!?」
「……はっ。も、申し訳ありませんアイリス様。何でしょうか」
半ば放心状態で砂煙を見つめていた私の肩を、隣にいたアイリス様が揺さぶった。
正気を取り戻し、慌てて呼びかけに応じる。
「立ち止まってる場合じゃないでしょ! 行くわよ!」
「はい!」
首をもたげてきた不安を無理矢理押し込め、再び通路を走り出す。
可能な限り早く走りながら、周辺への注意も怠らない。何よりも早く魔導機器を停止させ、私とマスターの生命回路を回復させないといけないのだから。
薄暗い通路を、人気のない広間を、行き止まりの部屋を、走り続ける。
しかし、それらしい機器は、どこにも見当たらない。
「や、やっぱり、この階層には、ハァッ、無いのかしら」
駆け抜けてきた部屋の中の一つで、息を切らしながらアイリス様が言葉を漏らした。
肩で息をする私は……その声に答えられなかった。
もし、グゥイ様が口にした魔導機器が、この迷宮全域に点在しているのだとしたら、短時間でその全てを機能停止させるなんて不可能だ。
それこそ、どこに設置されているか把握してでもいなければ。
「なんでアイツ、一人で残るなんて無茶を買って出たのよ……アイツの魔眼なら、ひょっとしたら機器の居場所だってわかったかもしれないのに」
「……それは」
私も内心そう思わないわけではなかった。マスターの魔素を写すことが出来る瞳。創造神の眼をもってすれば、この難題も容易く解決できたのではないかと。
しかしあの方は、自身が敵の矢面に立つ采配を下した。
きっと、アイリス様も分かっているのだろう。やりきれない気持ちが、マスター一人にあの場を任せてしまったことへの後悔が、思わず口をついて出てしまったのだ。
そう。私たち二人では、あの神位魔術師とは戦えない。
圧倒的な魔素量の差があるとはいえ、魔術師であるアイリス様ならまだ戦力足り得るかもしれないが、マスターから心素を受け取れず、魔装を展開できない私は、足手まといでしかない。




