神に位する魔術師⑨
やれやれ、とでも言いたげな呆れ気味の表情を浮かべつつ、スプリングロードゥナが歩み寄ってきた。
ディアナを庇う様に屈むアイリスと、その前に立つ俺。そして、数メートル先で佇むスプリングロードゥナと、グゥイの視線が交差する。
「さぁ、もういいだろう。今やお前たちの切れる手札は無い筈だ。大人しくディアナを引き渡せ」
「もし貴方様がパートナーの待遇を案じると言うのでしたら、この国に留まって頂いても構いません。勿論、そちらの宮廷魔術師の方も。多少は行動を制限させて頂くことになりましょうが」
有効な戦法は無くとも、戦意は失わずに見せつけているというのに、スプリングロードゥナとグゥイの雰囲気は最早終戦ムードだ。心なしか柔らかくなった声音で語りかけながら、俺たちとの距離を詰めてくる。
「ユ、ユーハ、どうするの……」
背後から、アイリスの弱々しい声音が届く。同じ魔術師であるアイリスは、俺たちの中で一番、スプリングロードゥナの強さを正確に把握しているのだろう。
状況は絶望的。
……そんなの分かってるけど!
「まだ、だっ!」
「むっ……お前、まだやる気か?」
俺は左腰に差していた短剣を抜き、対峙する女性二人に向かって構えた。薄暗い迷宮の広間に、白の刀身が朧げに光り輝く。
「ディアナ、アイリス! 二人で、生命回路を乱してるとかいう魔導機器を破壊してくるんだ! ここは俺が抑える!」
「そ、そんなことっ」
「出来るワケないでしょ!?」
俺の叫んだ提案を、二人の少女が即座に否定する。睨みつけたままのスプリングロードゥナですら、呆れ果てた顔をしているくらいだ。
……俺だって、無茶を言ってることは分かってる。
「さっきスプリングロードゥナは、『測定が間に合った』って言っていた! 魔導機器さえなんとかできれば、すぐにまた同じことは出来ないはずだ!」
だけど、もうこの手しかない。
「行くんだ、二人で!!!」
「――っ! 御心のままに!」
「ちょっ、ディアナ、正気!? ま、待って、引っ張らないでー!」
その叱責に応じ、慌ただしく広間を後にする銀と金の少女を、背中越しに見送る。
そうして俺が戻した視界に、腰を沈め、今にも猛ダッシュを決め込もうとする執事服の女性の姿が写った。
「追います」
「いやいい、グゥイ。あの二人は捨て置け。どうせ何も出来ん……それよりもコイツだ」
腕を組んだ黒髪の女王は、今度こそ隠そうともせず、大きな溜め息を漏らした。




