神に位する魔術師⑦
「一つ一つ手を潰してやれば戦意を失うかと思ったが、どうもそれだけではお前らは折れないようだな」
すぐさま体勢を立て直し、飛び掛からんと構える俺たちの様子に、スプリングロードゥナが肩を竦める。
そして、ずっと戦況を静観していた己の部下に向かって短く呼びかけた。
「グゥイ」
「畏まりました」
壁際にひっそりと佇んでいた執事服の女性が、恭しく頭を下げる。
彼女に声をかけたためか、スプリングロードゥナの視線が、一瞬俺とアイリスからグゥイへと移った。
「ユーハ、今っ!」
「おう!」
待ちかねたとばかりに、俺たちは全力で床を蹴って駆け出す。スプリングロードゥナの視線はすぐに戻るだろうが、この機を逃す手は無い。
踏み出す一歩にも魔法陣を展開。女王が視線を戻した途端、その鼻先ですぐさま攻撃出来るように、少しでも速度を上げてやる――!
そう思い、二つ目の魔法陣を踏みしめた時だった。
『!? マス――』
驚愕に引きつった相棒の声が聞こえたかと思った矢先、ラジオのノイズ音のような音が生まれ、その声をかき消す。
「どうした、ディアナ!?」
『――――』
相棒に呼びかけるも応えは無い。いや、応じてはいるのかもしれないが、その全てが砂嵐の如き雑音で、とても言葉として聞き取れない。
それでもそのまま駆け続け、スプリングロードゥナへ迫っていく。
――そのとき、どこからともなくバツン!! という耳障りな音が聞こえ。
「なん、だっ!?」
俺の身を覆っていた夜色の鎧がかき消えた。
最高速度に到達しかかっていた足に全力でブレーキをかけ、背後を振り返る。
そこには、先の言葉にもあった驚愕の色を顔に浮かべたディアナがへたり込んでいた。
「な、何が、起こって……?」
自身に起きた異変に動揺しているのか、迷宮の床にぺたんと座り込んだまま、両手に視線を落とすディアナ。
「ユーハ、下がって!」
「っ!」
一部始終を見ていたアイリスの声に応じ、俺はスプリングロードゥナを睨みつつディアナの元まで後退した。アイリスも追いつき、銀白の少女を気遣って屈み込む。
黒髪の女王は、特に追撃してくる様子も無く、じっと俺たちの様子を眺めていた。
「どうやら、成功のようだな」
スプリングロードゥナはそう呟いて右手の槍を肩に担ぐと、左手の指を鳴らした。それを合図に、俺たちを取り囲んでいた炎熱の柱が消え去る。全身を這い回っていた熱が薄れていく。
……しかし、今俺が感じている悪寒は、そのせいだけではないように思えた。
「お前、一体何をしたんだ」
「生命回路の絶縁、ですよ」
俺の発した女王への問いかけに答えたのはグゥイだった。
カツカツとヒールを鳴らしながら歩み寄ってきた紫髪の女性は、スプリングロードゥナの斜め前で立ち止まり、こちらを見て眼鏡の位置を直す。




