神に位する魔術師⑥
「でりゃあぁっ!」
自身に身体強化魔法を施したアイリスが飛び上がった。空中で反転した金髪の少女は、天井に着地し、標的に向かって急降下の飛び蹴りを放つ。
大振りのモーションゆえに容易く回避されてしまったが、アイリスの蹴りはそのまま迷宮の床を貫き破砕した。轟音と共に大穴が空き、瓦礫が宙を舞う。
「おおっ!? おいおい、お前魔術師だろうが!?」
魔術師らしからぬ膂力を振るったことに、さしもの神位魔術師も驚きを隠せなかったようだ。
それも仕方ない。さっき俺が躱した、火尖槍とかいう魔法と同じくらいの穴開いてるもんな。
アイドルのトレーニングと称し、長年過剰な特訓を重ねてきたアイリスは、やっぱり常識を超えた身体能力の持ち主らしい。ベロニカで会った時からそんな気はしていたが……今は頼もしい限りだ。
「おや女王サマ、ご存じないんですか? アイドルって、身体が資本なんですよっ!」
床に刺さった右足を引っこ抜き、金髪の自称アイドルは猛スピードでスプリングロードゥナに肉薄する。
身体強化魔法を使っているとはいえ、月神舞踏を発動している俺でも追い付るかどうか、といったレベルの速度だ。
あいつも大概万能だよなあ……とにかく、これで五分だ!
二人の激しい攻防の合間を縫い、俺も参戦する。
アイリスは女王に密着し、動きを止めるべく両手を掴みかかったり、要所要所で氷の光玉などを発動させたりすることで行動を制限している。スプリングロードゥナの反撃も紙一重の位置で回避し、付かず離れずの距離を保っていた。
その中で僅かに生まれる女王の隙を狙い、俺は瞬時にアイリスと場所を入れ替わる。それを繰り返して攻撃に緩急をつけ、大技を打ち込む決定的な一瞬を作り出すのだ。
全身を走る熱は、今なお俺たちの身体を苛んでいる。
まだ表情には見えていないが、内臓を茹でるようなこの熱に、アイリスも懸命に耐えているに違いない。
長期戦は決して望ましくない。かといって、焦って功を急いてしまえば、その瞬間を狙い撃たれる。
歯がゆい内心を振り払うように壮絶な勢いで、俺は蹴りや拳を繰り出し続けた。
「……ふん、健気なことだ、なっ!」
「ぐっ!」「きゃっ!?」
俺とアイリスが入れ替わろうとしたタイミングで、スプリングロードゥナが大きく槍を振り回した。
横薙ぎの軌跡が俺たち二人を同時に捉え、女王から引き離される。




