神に位する魔術師④
先ほどと同様にアイリスの誘導でスプリングロードゥナの不意を生み、今度は黒刺夢槍を叩き込んでやる。
息も付かせぬ高速移動で身体全体が悲鳴を上げているような気がするが、ここで少しでもスピードが遅れれば、間違いなくどデカい反撃を食らってしまうだろう。
決定的な打撃を当てるまで、このまま――
「ふん、ちょこまかと煩い兎だ」
眼下の女王はそう小さく呟くと、左の膝を大きく上げ、ずしんと踏みしめた。
「円卓炉心!」
「これは……!」
スプリングロードゥナを中心に、十本ほどの紅蓮の柱が円状に聳え立った。
女王の真上にいた俺とディアナも、円の内部に囲まれる形になる。
柱は傍目にも分かるほどに強大な炎熱で形成されているようだが、灯檻のように光線などを放って攻撃してくる様子は無い。
一瞬警戒心に従い移動速度を緩めようとしたが、それが狙いとする可能性もある。
ここは警戒しつつも現状維持だ。
『マスター。念のために柱から距離を……』
「ああ――っ!?」
相棒の声に従い、一度円の外部に向かって魔法陣を蹴ろうとした時だった。
あ、熱い!?
筋肉の内側から熱せられるような、骨の髄から燃やされているような、尋常でない熱量が全身から発せられている。
『くっ……こ、これは、あの柱の仕業に違いありません』
鎧姿のディアナも同じ攻撃を受けているようだ。熱に耐えつつ悲痛な声を伝えてくる。
俺も同意見だった。見ると、紅蓮の柱は煌々と輝きながら、沈黙せず微細に振動していた。
おそらく、発動している間、囲っている円陣内部の対象を熱する魔法なのだろう。巨大な電子レンジのようなものだ。
高速移動で体を酷使していることも手伝い、徐々に全身の熱が上昇している。既に重度の風邪にかかった時のように頭も茹だってきている。
このままじゃマズい。早く円の外に出ないと。
「ユーハっ!」
柱を睨んでいた視線を円陣外部に向けた俺に、警戒を示唆するアイリスの呼びかけが届く。
気付いた時にはすでに、俺の頭上にスプリングロードゥナが飛び上がっていた。
「止まったな……お返しだっ!!」
「ぐ、がっ!?」
スプリングロードゥナが上段に構えた大槍が勢いよく振り下ろされ、俺の背中を直撃する。
空中機動から一転、床に思い切り叩きつけられ、更に意識に靄がかかる。
突然の熱攻撃と状況把握で、ほんの僅かな時間滞った隙を、逆に突かれちまった……!
まだ飛び上がったままの女王を睨み上げると、轟々と燃え盛る穂先が向けられているのが目に飛び込んできた。




