召喚特典と世界間差異⑨
地球でいう首長竜は、俺の生活していた二十一世紀からさかのぼって、実にウン千年以上前に存在していたという。当然俺もテレビ番組やアニメなどで描かれたものを見たくらいだが、彼らを紹介していたもののどれもが、人間をその背に乗せて運べるほどの大きさをしていた、という認識は共通している。
そんなド級の存在が、今目の前にいる。
顔の形が記憶にある爬虫類然としたものではなく、狐や狼などの犬系動物を正面から見たような造形なのは、あの竜がこの世界特有の個体であるからだろう。
だが、大きさは地球に伝わるものと遜色ない。
やせっぽちの俺なら三人、いや四人は乗っけてもらえそうだ――そんなことを考えたとき。
俺をまっすぐ見つめる首長竜の目が、怪しく光った、ように見えた。
竜がその鎌首をもたげる。そのまま、ほんの少し天を仰ぐような体勢になる。
そして、特大の水球を俺に向けて吐き出してきた。
「――うおッ!!」
なんじゃそりゃあ!
悲鳴を上げる間も惜しく、とっさに横に飛びのいた。
数刻前まで俺のいた空間を水球が通り過ぎ、後方の木にぶつかる。
俺が三人くらいいてようやく囲い込めそうな木の幹を、水球はあっさりと粉砕した。
極太の幹と衝突した水球が弾ける。水球を構成していたと見える少量の魔素が散って消える。
それと同時に、巨木の幹もその身を大きく歪めてひしゃげ、木っ端を散らしながら倒れこんでいった。
「……嘘、だろ、おい」
いくら植物とはいえ、あの太さだと相当頑丈なハズなのに。
目の前でくり広がられた光景に呆けている俺を、奇しくも首長竜のものらしき嘶きが正気に戻した。
どうやら、自分の縄張りを侵した俺を排除するための攻撃が避けられ、怒りに触れたらしい。
再度、同様の攻撃態勢に入っている。
このままじゃマズイ! 駆け出した俺の真後ろを先ほどのものと同じ水球が通り過ぎていく。
あんなのがいたんじゃ湖底の魔晶を探すなんてできたもんじゃない。一旦身を隠すべく、先ほどの建物目指して必死に足を動かした。
「まずはあいつをやり過ごさないと――うヒッ!?」
あっっっぶな!! 今ちょっと太ももかすった!
ちらりと横目で竜を見ると、ほぼノータイムでさっきの水球を連射している。
さっき巨木を折った時には、若干だけど水球から出た魔素が消滅していくのが見えた。ということは、あの水球は竜の使う魔法の一つで、魔力切れがチャンスじゃないかと思ったが……




