神に位する魔術師③
あんな絶大威力の一撃を放ったというのに、スプリングロードゥナの宿す魔素はいささかも衰えていない。
それはつまり、黒刺夢槍を容易く相殺する魔法を、何度も放てるってことだ。
大爆発を起こした炎槍を背後に、女王に向き直る。最大の一撃で決める手は潰えた。
なら、次だ。
「アイリス! 合わせてくれ!」
女王よりさらに離れた位置にいる金髪の少女へ呼びかけ、俺は石造りの床を蹴った。
広間の床を、天井を、空中を、夜色の魔法陣を駆使して縦横無尽に跳び回る。
その際、床や天井のような物理的な足場がある場合でも魔法陣を展開して跳躍する。
魔法陣から魔法陣へと跳び続けることで、速度を上げていくのだ。
俺の身体は、この世界に召ばれたことで向上した身体能力に加え、月神舞踏を纏うことでより飛躍的に向上している。
そのおかげで、残像が残るほどの速度で移動し続けても、標的から目を逸らさずにいられる!
前後左右に激しく跳び回る俺を、スプリングロードゥナも逃さず視線で追い続けていた。
……ここだ!
俺は女王の右手側でほんの少しだけ速度を緩めた。スプリングロードゥナの顔がスローモーションで追いついてくるのを僅かな時間、待つ。
女王の視線が俺を捉えた瞬間、その鼻先で小さな閃光が弾けた。
アイリスの発動した一瞬の火花が、スプリングロードゥナの視界を奪う。
同時に、ありったけの心素を込めた魔法陣を蹴り、瞬時に女王の背後へと回り込んだ。
これなら、どうだ……!
「『闇夜神路!』」
無防備な背中に向けて、心素を込めた右足を振り抜く。
三日月の奇跡を描く夜色の波動が、真っ直ぐに進み、スプリングロードゥナの身体に衝突するのが見えた。
「ぐっ……!?」
黒刺夢槍ほどではないが、猛烈な勢いで夜色の波動が炸裂する。
がら空きの背中に波動を受け、流石の女王も身をよろめかせた。
だが、大きなダメージには見えない。再び視界に捉えた俺を睨む眼光の鋭さに、陰りは微塵も感じられない。
次、だ!
再び高速機動に入り、攻撃の隙を窺う。
超絶スピードであることを狙い、俺の移動する先に灯檻が設置されるのも見えたが、アイリスのサポートと、俺たち自身の回避によって直撃には至らない。
この調子で少しずつ女王の魔素を削ぐ……!




