神に位する魔術師②
右肩を発射口にして前方に打ち出した剣尖から、棘持つ夜色の槍が放たれる。
スプリングロードゥナの間近で放ったことで、そのままの姿勢で俺も突っ込んだ。
黒刺夢槍を発射した姿勢。純粋な刺突攻撃も追い打ちで食らわせるためだ。
夜剣から黒槍が放たれて一拍ののち、形容しがたい轟音が鳴り響き、眼前で槍が炸裂する。
その更に刹那、渾身の勢いを乗せた突進攻撃が標的へ命中した。
もうもうと立ち込める砂煙で視界が悪いが、剣から伝わってきた手ごたえは確かなものだ。ダメージの如何はともかく、間違いなくヒットしている。
加えて命中させたのは、今俺とディアナが繰り出せる最大威力の攻撃だ。
まさか無傷なんて、ことは――
「――成程。威力だけは大したものだな」
「っ!」
砂煙の向こうから聞こえてきた声音に、全身が固くなる。
右手に握る夜剣に力を込めるが、びくともしない。
少し晴れた視界の先には、白熱する槍で夜剣を受け止めるスプリングロードゥナの姿があった。
無傷どころか、舞い上がった埃で身を汚している様子すら無い。
んな、バカな……! 突進の突きはまだしも、魔晶個体さえブチ抜く黒刺夢槍を直撃したんだぞ!?
驚愕に目を見開きながらも、夜剣から微塵も力を緩めないのは至難の業だった。
広間の半分近い距離を駆け抜けた推進力もあったはずなのに、しかしスプリングロードゥナは、当初の位置から一歩も動いていない。
鍔迫り合いと言うには明らかに均衡の取れていない接触を一瞥し、黒髪の女王は右手首を軽い動作で捻った。
それだけで、俺が渾身の力で押し込んでいた刀身が容易く解かれる。バランスを崩した俺を、すかさず灯檻と呼ばれた光線が狙い打つ。
そのいくつかをアイリスの氷球が打ち消した。俺自身も回避のために、そのままの勢いで床を転がり、少しだけスプリングロードゥナと距離を取る。
「火尖槍!」
腰を沈め、女王が槍を引き絞り、式句と共に前方へ突き出した。黒刺夢槍にも劣らない出力の、槍の形をした豪炎が射出される。
あの技で黒刺夢槍を相殺したのか。そう理解すると共に、体勢を崩した今は同じように相殺できないと判断する。
「くっ……ディアナ!」
『はい!』
俺の声に応じ再びディアナが変身を行う。
夜色の身体強化鎧、魔装形態に身を包んだ俺は、炎槍が被弾する寸前のところで魔法陣を蹴った。
真横へ飛び退いた途端、寸前まで俺のいた空間で炎槍が爆発し、迷宮の壁と床を破壊する。




