まるでゲームマスターが介入してくるような⑧
「……話は済んだか?」
槍を目の前の床に突き立てたせいか、前髪がかかってフレア王の表情を隠している。
しかし、その背後から立ち上ってくるような魔素の怒涛が俺にはしっかりと見えていた。
もし物理的な質量があったなら、それだけでこの広間を覆い尽くせそうなほどに強大な魔素。
それに対峙することで感じる、ある種の諦観にも似た恐怖を押し殺し、言い放つ。
「ああ。あんたにディアナは渡さない。俺たちは三人で先に進む!」
「そうか。なら、この私を越えて見せろ」
そのシンプルな一言を皮切りに、黒髪の女王から滲み出ていた魔素が一気に膨れ上がった。
魔晶個体にも劣らないどころか圧倒的に凌駕する、その濃密さに、アイリスが小さく悲鳴を上げる。
ディアナも、チケットを懐に仕舞い込んで即座に居住まいを正すが、額に冷や汗が滲んでいた。
空気の流れなど無い地下の筈なのに、魔素の脈動に応じてフレア王の黒髪と黒衣が激しくはためく。
垂れ下がっていた前髪が逆立ち、鋭い眼光を宿す双眸を露わにした。
「この国を統べるものとして、一人の神位魔術師として、お前たちをそのまま行かせるわけにはいかない」
ギャリィィィン! と激しい音と共に、フレア王が槍を引き抜いた。
長身の彼女をも上回るサイズの槍を軽々と振るい、俺たちの方へ突きつけてくる。
その切っ先が瞬時に赤色し、一気に白熱色へと変じた。
「我が名はフレア・ガランゾ・スプリングロードゥナ」
離れたところにいるのに、顔が熱を感じる。
彼女の胸の内の温度を外の世界に伝えてくるかのように。
「神位名、『天壌紅蓮』」
長い黒髪が魔素の暴風によって靡く。長髪の先端さえも強烈すぎる熱によって赤白し、風に火の粉を散らしていた。
「己が意地を通すなら、我が紅蓮の焔槍を退けて見せよ!」
フレア王……いや、魔晶個体スプリングロードゥナを。
「倒して、行くぞ! ルナちゃんのライブに!」
「はい、マスター!」「も、勿論よ!」
――三人で、一緒にな!




