まるでゲームマスターが介入してくるような⑦
朧げな空想のようなものかもしれないけれど、彼女がアイドルに憧れていることを、俺は知ってる。
「あー、イヤ、だったかな」
「……いいえ。いいえ! わたし、も、私もっ! ご一緒、したいと、思っておりました……!」
ディアナは差し出されたチケットをそっと受け取り、そのまま胸に抱き寄せた。
彼女の閉じた瞳から涙が溢れ、音も無く頬を伝って流れる。
あー良かった! 実はめちゃくちゃ緊張してました俺!
ディアナもルナちゃんのファンになったとは確信していたけど、チケット受け取ってくれるかどうかは賭けだったんだよね! 私地球には行けませんし、とか言われる可能性あったし! はははは心臓の音うるせえ!
俺にはフレア王たちの言葉に反論することは出来ないけど、ディアナの抱いたルナちゃんへのファン魂……ライブ参加欲を後押しすることなら出来る。
現状の不安も、他者からの疑念もかなぐり捨てて、自分のやりたい意思を貫く。
その手伝いなら出来るんだ。
「決まりだな! 大事にしまっておいてくれ」
「はい! ……ありがとうございます。マスター」
そう答える相棒の表情は、薄暗い迷宮の中でも燦然と煌めく笑顔だった。俺もつられて微笑む。
「ちょちょ、ちょーっと待って!」
そうして訪れた穏やかな空気は、背後の金髪の少女の金切り声で、彼方へと瞬時に消え去った。
「ね、ユーハ! そ、そのライブってー、アタシも一緒に見れたり……する?」
「え? アイリスも? なんで?」
「なんでじゃないわよぉ! 今の流れでアタシだけハブるってナシでしょ!? ね、まだチケット余ってるんでしょ!? ね、ね?? お願いだからぁ!!!」
手を合わせて拝みこんでくるアイリス。後で声をかけるつもりではいたんだけどな。
ちょっとからかってやろうと思い、チケットの入った封筒を手早く内ポケットに仕舞い込み、悩ましげな表情を見せる。
「んー、でもホラ、アイリスってベロニカの宮廷魔術師だし、あんまり拘束するのはベロニカ王に悪いかなぁ」
「陛下にはアタシから説明するから! お願いしますユーハ様ぁ!! アタシにはルナのライブを見届ける使命と責務があるのよぉ!!!」
土下座しそうな勢いで迫ってくる。アイドルとしてライバル視するなら使命はわかるけど、責務ってなんだよ……プロデューサーとか関係者なの? んなわけないよな。
「ううっ、ディアナ~。ディアナからも説得してやってよアイツ~」
「ま、まあまあアイリス様。マスターなら、きっとアイリス様もお誘い下さいますよ」
遂にアイリスが、ディアナに抱き着いてメソメソし出したので、いい加減チケットを授けて進ぜよう、と再び内ポケットに手を入れた時だった。
ガィィィン!!! と猛烈な金属音が響き渡り、周囲の空気を制する。
音の出どころは当然、フレア王その人だった。
担いでいた大振りの槍を床に深々と突き立てている。




