地下迷宮のショートカットはこうする⑩
真面目に迷宮攻略する時間なんて無い俺は、先日のグゥイによる迷宮説明の折、『攻略期と復元期がある』という件を聞いた途端に「しめた!」と思った。
それはつまり、迷宮そのものも劣化し、損傷する事実があることを意味する。
要するに、許容量を超えるダメージを与えさえすれば破壊することが可能ってことだ。
特異点ゆえの膨大な魔素があれば、そういったダメージなんかも無効化されてしまうのかもしれないと思っていたが……魔素の用途が、防護ではなく再生にあって本当に良かった。
あとは、鋼鉄の柱のようなヒュージトレントのどてっ腹さえも貫通するほどの威力を誇る、黒刺夢槍をぶち込むだけだ。まあ、後から来る冒険者が通れなくならないよう、広間を探す必要はあったけど。
眼下の穴の向こうには、崩れ落ちた一層の床の破片と、第二層の床が見える。まだ魔物たちの影もない。
「今のうちに降りよう」
「そうね。なんだか通路の方が騒がしくなってきたし」
先に俺が二層へと降りた。どうやらここも通路のようだ。前後に細長い石壁が伸びている。
様子を窺うが、やはり気配を感じる範囲に魔物の姿は無い。
穴の縁にいたアイリスに頷いて示すと、金髪の少女は、頷き返してからひらりと身を躍らせた。
「あ」
直後、そのまま頭上を見上げていた俺は、しまったと言わんばかりに声を漏らした。
「よいしょっと……なによ。呆けた声出しちゃって」
着地と同時にパチンと指を鳴らし、アイリスが頭上の穴を氷魔法で塞ぐ。
数舜前の光景に混乱していた俺は、馬鹿正直に思ったことを口に出してしまった。
「いや、その、アイリス、そのローブの下ワンピースか何か?」
「そうだけど……あ」
やべっ、自覚させた!
「あ、アンタ、アイドルのスカートの中見てんじゃないわよ! お金とるわよ!?」
「見たくて見たんじゃねーし! ていうかそっちこそ、もうちょっと警戒しろよ! そんなんだから下心しかないファンに絡まれんだぞ!」
「ハァー!? プライベートでもファンへのレスに手抜かないプロ根性褒めなさいよ! アンタそれでもアタシのトレーナー!? さっきアイツらに自分が言ったこと思い返してみなさいよ、一〇〇回くらい!!」
俺とアイリスの売り言葉に買い言葉が、重苦しい雰囲気の迷宮内に姦しく鳴り響く。
通路の向こうにまで声が届いたのか、ぞろぞろと魔物たちが近寄ってきていた。実は頭上の穴を塞いだ氷の上にも、冒険者たちの影が見え隠れしていたのだが、俺とアイリスはどちらに対しても全く気が回っていない。
『あの……お二人とも、早く次の階層に進みませんと、他の冒険者に追い付かれますよ』
そのディアナの言葉がかけられるまで、俺とアイリスはたっぷり五分ほどもお互いを非難し続けたのだった。




