地下迷宮のショートカットはこうする⑧
そんな風に、俺がマッチョの背中に馬乗りになりつつ、蹲ってびくつき続けるネズミ男に向かって謝罪を求め続けているところに、受付嬢さんと数名のギルド職員と見える男性を引き連れたディアナが戻ってきた。
俺がこの喧騒に頭を突っ込む前、ディアナにはこのことを報告しに行ってもらっていたのだ。
ディアナに声をかけられてようやく落ち着きを取り戻した俺は、迷惑な冒険者二名を運営側に引き渡した。
それと同時に、こういう場面ではすぐにギルドの方に声をかけ、極力自分での解決はしないよう注意も受ける……はいすいませんでした。いや俺も元から押さえ込んだりするつもりは無かったんですよ? 説得力無いかもしれませんけども。
受付嬢さんから聞くところによると、あの二人はこれまで何度も同じ騒ぎを起こし、目を付けられていた常習犯なのだそうだ。迷宮攻略の上級者という話もデマらしく、ギルドの目から離れる迷宮内の上部階層でトラブルを起こし、悩みの種だったのだと言う。
「今回の件でとうとう身柄を預かることになりましたので~、たっぷり絞られることになるかと。ご協力には感謝しますが、皆様は初心者なのですから、あまり騒ぎには介入しないようにしてくださいね!」
「は、はぁーい……」
ベロニカ王に続き、この国でもお小言を言われてしまうとは……と、声尻を下げる俺。
その俺の様子に受付嬢さんは納得してくれた様子で、ぞろぞろと迷宮入口の暗闇へと去って行った。再び周囲の様相が、突入したての重苦しくも静謐なものに戻る。
「やれやれ……おいアイリス、これに懲りたら普段の振る舞いを少し見直して――って、何その神妙なカオ」
「…………」
一息吐いて肩を落とした俺は、無言のまま口許を押さえるアイリスを見て、再度眉根を寄せた。
アレを思い出すな。ベロニカの王城でアイリスと会ったとき。同じような表情をしたかと思えば、ものすごい勢いで部屋へ引きずり込まれたから、正直ホラーだった。
迷宮内には拉致る部屋も何も無いから、同じ心配はしなくていいだろうけど。
「……アンタ、ルナちゃんって言った?」
「言ったけど……ああ、そういやルナちゃんについて語ってなかったっけ」
「あー、イヤ、今はいいわ。それだけ聞けたらとりあえずは」
「? そっか」
妙に腑に落ちた様子のアイリスに首を傾げながらも、まあ迷宮内だし、と俺も一人納得する。
迷宮を出たら、仕事内容という点だけじゃなく、ルナちゃんの魅力についてアイリスに聞かせるとしようかな。




