地下迷宮のショートカットはこうする⑥
ちろりと背後の暗闇を見やり、ディアナに声をかける。
「ディアナ、頼めるか?」
「御心のままに」
暗闇を指さすと、ディアナはぺこりと頭を下げ、迷宮入口へと駆け出して行った。
その小さな背中が見えなくなるのを確認してから、改めて諍いの中心に向き直る。マッチョの冒険者の方が、下品な笑顔でアイリスに向かって手を伸ばしていたところだった。
すぐに止めないとダメだなありゃ。気持ちを切り替え、胸いっぱいに息を吸い込む。
「はいはーい! そこまでにしてくださーい! 当方のアイドルに過度な接触をされては困りまーす!」
俺は腹の底から大声を出し、柏手を打ちながら三人の方へ足早に歩み寄った。
狭い空間に声が反響し、アイリスも、野郎二人も、俺自身でさえその声量に一瞬身を震わせる。
「あぁー!? 何だガキ! 俺らに向かって言ってんのかぁ! ア!?」
「ここ、こんなところで大声を出すなんて、ひ、非常識なんじゃないかい……?」
それお前の隣の筋肉に言えよネズミ男。
ツカツカと足音も高く三人に詰め寄った俺は、そのまま野郎二人とアイリスの間に割って入った。
伸ばしていた手が行き所を失い、マッチョの表情がみるみるうちに剣呑なものに変わっていく。
その表情を目にし、一瞬、かつて俺を害したいじめっ子たちと姿を重ねた。
刹那心をざわつかせた闇の影を、胸中で、フン! と鼻を鳴らして一蹴する。
そんなのはとうに乗り越えた壁だ! そう……今の俺にはルナちゃんのライブに参加するためという、揺るぎ無い大義名分がある!
だからここは、俺に任せておけ! と、聞こえるはずもないが、背後にいるはずのアイリスに向かって見栄を切り……俺は野郎二人を正面から見据え返した。
「こちらのアイリスは当方のアイドルになります。本日はイベント業ではなくプライベートでの迷宮攻略になるため、申し訳ありませんが、ファンの皆様におかれましては、後日開催予定のライブや握手会、サイン会等でコミュニケーション頂けますよう――」
などとそれっぽい言葉を訥々と語りながら、アイリスにだけ見えるように、下がるようジェスチャーする。察してくれたアイリスと共に、すこーしずつ後ずさって冒険者二人から距離を開けていく。
……淡々と述べているように見えるかもしれないが、心臓はバックバクだ。思い付きでスタッフのフリを装ってはみたが、ほとんど口から出まかせだもの。
これで聞き分け良く引き下がってくれたり――
「ワケの分からねぇことばかり言ってんじゃねえぞ! テメェには関係ねえだろうが!」
あ、しませんよね、ハイ。




