地下迷宮のショートカットはこうする⑤
トンネルの内包する暗闇に包まれるとともに、周囲の冒険者たちによる喧騒が遠のいていった。
そのまま前へ歩き続けるにつれ、視界が少しずつ闇に慣れていく。
周りの様子を肉眼で確認できるようになってようやく、自分が今いる場所が、石造りの通路のような空間であることに気付いた。前方には、先に入った冒険者と見られる姿もある。
左右の幅は、大人三人が横に並んで歩ける程度だろうか。天井もやや高く、四・五メートルくらいはありそうに見える。大きな武器もある程度なら取り回しが効きそうな感じだ。
石造りだからだろうか、辺りの空気はひんやりかつどんよりとしていて、ごく僅かな不快感を抱かせる。
……さっさと魔晶を回収して、こんなところは出てしまいたいもんだ。
周囲の様子をざっくり確認した俺は、先に進もうと声をかけるべく、少女二人の方を向いた。
その時だった。
「あ、あの~。こういうのは困る、って昨日もお断りしたと思うんですけどぉ……」
「そうつれねーこと言うなよネーチャンよ! こうして俺らを追いかけてきたってことは、まんざらでも無かったってことだろ? ん?」
「そ、そそ、そうに違いないよ。きききみも、僕らのことが忘れられなかったんだろう……?」
「……なんだありゃ」
迷宮に足を踏み入れて状況確認していた短い隙に、アイリスが冒険者らしき男性二人に絡まれていた。
一人はちょっと引くぐらいのマッチョメンだ。己の筋肉に自信があるのか、上半身はベスト一着、下半身はふくらはぎが見えるようなミドルサイズのパンツで、無駄に露出が多い。
もう一人は小柄で細身の、ネズミを彷彿とさせる顔つきの男性。服装は普通だが、なんだか全体的にくたびれているように見え、不健康そうな印象を受ける。腰には、彼には重そうな幅広の長剣が下がっていた。
「昨日、私と合流する前に、付きまとってきた二人組がいたとおっしゃっていました。ひょっとしたら、あの方々がそうなのかもしれません」
心底面倒くさそうだなあ、という表情で様子を見ていた俺の後ろから、ディアナがひょっこりと顔を出した。その説明を受け、ははーんと一人納得する。きっと、アイリスの見せた外向けのアイドルスマイルと言動にやられたんだろう。
この世界にはアイドルの概念が無いからなぁ。それと知らずアイリスと接した男たちが、気を良くして一歩踏み込んでしまったんだな。言うなれば、プライベートに出くわしてお茶でも一緒に、なーんて無茶に言い寄るファンのようなもんだ。
そういうのはいただけないな!




