地下迷宮のショートカットはこうする④
建物の中に入ると、想像していたギルドのような構造だった。
室内は五〇メートル四方の正方形といった感じだろうか。
右手にカウンターがあり、受付と思われるお姉さんたちが同一の制服に身を包み、訪問者へ笑顔を向けている。その対面である左手側にはテーブルと長椅子が並び、腰かけて談笑する冒険者の姿がちらほら見られた。
そして正面には、一見トンネルのように見える大きな穴があった。冒険者たちが何人か出入りしているのを見るに、アレが迷宮の入口なのだろう。
穴を優に覆えそうなほどに巨大な、かつ極太の鉄格子が左右に大きく開け放たれている。
普段はあの鉄格子で入口を覆っているらしい。
万一の魔物の脱走などに備えてのもののようだが、見たところ傷のようなものは確認できない。各階層で出現した魔物が、他の階層に移動することは無い、というのは本当のようだ。
冒険者を次々と飲み込むトンネルの前まで来ると、すぐ傍に立っていたお姉さんがアナウンスしてきた。
「お次の方どうぞー。おや、あなた方は魔晶回収の召喚者様御一行ですね。迷宮のご説明は必要ですか?」
「大丈夫っス」
「勉強熱心なことで何より! それでは、前のパーティの姿が見えなくなってからお入りくださいねー!」
受付嬢さんは、数多くの魔物が巣くう特異点の前とは思えない朗らかな調子で、満面のスマイルを向けてくれた。
ノリについていけない俺は、ハハ……と乾いた笑いしか返せなかった。流石と言うべきか、アイリスはお姉さんに負けないくらいの笑顔を見せ、周囲の視線を一身に惹き寄せていたけど。
ホント、歌以外はパーフェクトだなあいつは……俺は気を取り直し、迷宮の入口たる大穴に向き直る。
不思議なことに、穴の中は謎の暗闇に満たされ、その奥を全く窺い知ることが出来ない。太陽光の逆光のせいなどでもなく、純粋な漆黒だけが広がっている。
分かるのは、先の特異点二つにも劣らないほどの豊潤な魔素が溢れているということだけだ。
目を閉じて、深呼吸を一つ。緊張した心を落ち着けようと努める。
頭の中で、昨日組み立てた作戦を再確認する。うん。大丈夫だ。やることは単純だし。
目を開けると、俺たちの前の冒険者四人が、丁度迷宮へ入るところだった。
慣れた様子で足取り軽くトンネルをくぐった彼らの背中は、闇に包まれた途端に見えなくなる。
「それではお三方、どうぞー!」
トンネルの闇と対照的な受付嬢さんの笑顔に見送られ、大穴へと歩き出す。
「それじゃ、行こう」
「はい、マスター」
「はーい☆ この至上のアイドル、アイリスちゃんにお任せっ♪」
イラッ。
「ディアナ、さっさと行くぞ」「そうですね」
「あ、ちょっ!? ホントに置いてくんじゃないわよー!」
自称至上のアイドルを置き去りにする勢いで、俺は足早に眼前の暗闇へと飛び込んだ。




