召喚特典と世界間差異⑦
一応火口湖周囲の砂利道や木々の下も見回ってはみた。だが、普通の石ころはいくつもあっても、「これだ」と一見して違いのあるようなものは見つからなかった。
もしかしたら魔晶も見ただけではただの石で、この世界の魔術師が見ればわかる代物である、という線も考えたが、だとすると俺に取りに行かせること自体が間違っている。さすがにこの線はないと思いたい。
今までの人間はわかったが俺だけわかっていない、ということもありうるが、もしそうだとしたらこのあたりの石ころをすべて持ち帰るくらいしないとダメだ。
当初はティンときた(感じのした)石ころだけを拾い集めていたが、ほぼ真円のような形の火口湖周囲を四分の一ほど歩き進めたところで耐えきれなくなり、石をすべて投げ捨て、思わず叫び声をあげていた次第である。
とはいえ、叫んでいても仕方がない……
もう少し好意的に考えてみよう。
単純に見えてないところにあるのでは?
「となるとやっぱり、この湖の中か……」
再び火口湖を睨みつける。丁度太陽が大きな雲から顔を出したところで、やわらかい陽の光に水面がキラキラと色めき立つ。
せめて、この日光に反射でもするような石であればと思い、目を細めてみる。
すると、水面に何やらたゆたう影が見えた。
「……ん?」
なんだアレ。見間違いかと思い、眼鏡を外して目をこする。
再び視線を集中すると、やっぱり見える。水の中に絵の具を一滴落としたかのように、油が混じった水たまりのように、湖の水面に、それとは違う液体のような『何か』が揺らめいている。
そのことに気づいた瞬間、その『何か』が水面だけではなく、そこら中に薄く広まっていることが分かった。なぜ今まで気づかなかったのだろう。おそらく、この山中に、ともすると、この世界中がこうなっているのではないか。
その『何か』は空気中に薄い霧のように充満しており、火口湖の水面に触れた途端、急に水に近い密度に増え、溶けだしているように見えた。
理解した。これが『魔素』なのだ。
普段は空気のように世界を覆い、満たしている魔素は、特異点と呼ばれる場では液体のような密度にまで圧縮・収束し、魔晶に吸収されるのだ。
つまり、この魔素がより集中していく場所に魔晶がある。




