女王というより姉御⑨
「いろいろ、説明ありがとうございました」
席についたまま、頭を下げる俺。しかしフレア王は、先にアイリスの腫瘍を取り除いたときと同じく、手を振って鼻を鳴らす。
「礼なんぞいらんいらん。これが我々の務めなのだからな……グゥイ」
「畏まりました」
またもやその一言だけで指示を理解したらしいグゥイは、恭しく頭を下げたかと思うと、途端に姿を消した。
ぎょっとして目を剥く俺だが、グゥイの消失と同時に開いた窓と、その向こうで建物の上を高速で走る執事服が見え、尋常でない速度で彼女が執務室を後にしたのだと気付く。
「驚かせてすまんな。アレは私の片腕にして、実質この国を取り仕切っている張本人だから、何かと忙しいんだ」
「ああ、それで……」
他の公務に向かったといったところか。それはむしろ、忙しいところにわざわざ説明してもらって申し訳ないっていうか。
グゥイに退席してもらったということは、必要な説明はすべて終えたということだろう。それなら俺も、ディアナとアイリスを追って祭りに行こうかな……合流できるかはわからないが、迷宮の入り口は見ておきたいし。
そう思って、用意された丸椅子から立ち上がろうとした時だった。
「ああ、少しだけいいか?」
「? 何か?」
フレア王が、右手を差し出して俺を制止してくる。
立ち上がるべく前傾姿勢になっていたところを座り直し、俺は胸中で首を傾げた。なんだろうか。
黒髪の女王は、ほんの少しだけ間を置き、目だけで周囲を見回した。視線がぐるりと室内を一周し、最後に俺の方を向いて止まる。
何かを、警戒している?
ふと脳内にそんな疑問が浮かぶも、根拠も無い思い付きで、逆に「なんでやねん」と自分にツッコみそうになった。何に対して、どうしてそんなことをしているのか見当も付かないのに、何故そう思ったのだか。
奇妙な巡回を終えた様子のフレア王が、ぽつりと問いかけてくる。
「お前、あの響心魔装を私に譲る気は無いか?」
「……はい???」




