女王というより姉御⑦
ああそれでフレア王が国外に一人で出ていたのか。俺たち三人と出くわした時のことを思い出す。
一国の女王が護衛も引き連れずに一人で森をうろつくなんて考えられないことだが、特異点復元時の影響を考えての采配だったということなら頷ける。
宮廷魔術師数十人分の魔力を個人で有するフレア王が国内にいたら、その魔素を吸収した迷宮は途轍もない難易度の地獄と化していただろう。
まあ、それだけの実力ある魔術師であるなら、そもそも護衛自体必要なかったりするのかもしれないけど。
俺が一人納得していると、隣に腰かけるディアナが遠慮がちに右手を上げた。
「あの、一つよろしいでしょうか」
「ええ。なにか、不明な点でも?」
ディアナの問いかけにグゥイが応じる。口調もそうだが、この二人は声のトーンまで似ている。
「今のお話ですと、ここの魔晶は特異点の、ひいてはガランゾ国の運営のために必要不可欠なもののように思えるのですが、我々が魔晶を回収してしまっても問題ないのでしょうか?」
「あっ」
相棒が発した的確な疑問に、思わず口元を押さえる。
その通りだ。迷宮内の魔晶を回収したら、先ほど説明された、迷宮の攻略・復元のサイクルは機能しなくなるんじゃないのか。いったい今までの召喚者たちはどうやっていたんだ。
フレア王は、当然の疑問だ、とでも言いたげに軽く頷くと、傍らのグゥイを再び見やった。
やはりそれだけのやり取りで意を察した執事服の女性が返答してくる。
「ご心配には及びません。迷宮内には、広く湧出する魔物たち以外に、それらを取りまとめる頭目個体が出現します。頭目個体はみな小さな魔晶を内部に有しており、これを回収し、フレア様の手で結合することで、一時的な代用品とすることが出来るのです」
その擬似魔晶とでも言うべき品を使うことで、次の魔晶が出現するまでは保つのだと言うが……類似品とはいえ、魔晶作れるのかよ、この女王サマ。
「まあ、手順さえ確立すれば難しくはないぞ。手間だがな」
新たな魔晶が発生する時期や、その規模なんかは完全に読めないらしいが、迷宮で入手できる魔法武器なども、つなぎとして組み込むことが可能で、ある程度なら効果の持続期間をコントロールできるのだとか。
その方法以外にも、魔晶内から限界寸前まで魔素のみを回収し、魔晶自体はそのままにした例もあるそうだ。これも、魔素を吸収する媒体と魔晶との媒介として、フレア王が力添えするのだという。
この人、チートだな……何でもできるんじゃないのか。




