女王というより姉御④
声をかけてくる人たち全員にしっかり返事をするフレア王の姿を見ると、この人もベロニカ王のようにいい人っぽいように思える。まああの人は底抜けに善人だったからな。アレを超える人はなかなかいないと思うけども。
さっきのおじさんもそうだったが、八百屋や屋台を営んでいる人たちは、軒並みフレア王に本日のおススメを振舞ってくれた。足を止めさせないような、食べながら歩けるような果実や、揚げ物や串焼きといったものがメインだが、彼女に連れられる俺たちもご相伴に預かることができた。
そのおすそ分けは、王城に到着するまで続いたのだが……
「よし、到着だ。って、なんだお前ら、まだ食い終わってなかったのか?」
城の入口たる扉の前で振り返ったフレア王が、俺たちを見て呆れた声を漏らした。
何故なら俺たちが、両手いっぱいに果物を抱え、持てる限りの串焼きなんかを処理してる真っ最中だったからだ。
「多いんだよ、量が……」
揚げ物を一つ食い切ってから、俺が代表して答える。ディアナもアイリスも絶賛パクつき中で、とても返答できる状況ではない。
やれやれ、といった様子で肩を落としたフレア王は、俺たちの持っていた串焼きと揚げ物群をすべてかっぱらい、ものすごい速度で食し始めた――食うのはっや!? 秒間一本くらいのペースで串焼きが串だけになっていくぞ!?
瞬く間にすべての串焼きを平らげた女王は、速度を落とさず揚げ物の処理に移る。
そういやこの人も俺たちと同じだけの食べ物をもらっていたはずなのに、今手ぶらだもんな……あっという間に食い切ってたんだな。
なんて考えているうちに、フレア王の早食いが終わり、俺たちの抱えるのは色とりどりの果物だけになった。
「それはウチの兵士に預けておけ。あとで声をかければ手渡すようにしておこう……スラヴィン、メイオ、これを頼む」
フレア王が声をかけた、二人の年若の男性兵士が俺たちから大量の果物を預かってくれた。
やはりというか、兵士の名前もすべて覚えているらしい。
「それじゃあ、まずは私の部屋まで来い。迷宮について説明しよう。それと、先に言っておくが、今日は迷宮には入れないからな」
「えっなんで」
何その重要な情報! 何でサラっと言うんだよ。聞き逃すところだったじゃんか。
「今日は『復元期』の最終日だからな。まあそこも含め私の部屋で話そう。さっさと来い」
聞き慣れない単語を口にして、女王はツカツカと城の中へ入っていく。たった今大量の食事を終えたばかりとは微塵も感じさせない早足だ。
置いて行かれないよう、俺たち三人は慌てて彼女の後を追った。




