召喚特典と世界間差異⑥
扉の向こうから聞こえる電子音は、電子マネーを自動改札機に押し当てたときのような音に似ていた。機械的な音が、一定間隔で鳴り続けている。
真っ先に思い浮かんだのは、患者の心電図を示す、あの機械だ。
実は下の階にあった書類は本当にカルテで、ここは病院のような施設だったのかもしれない。
いや、だとしても腑に落ちない点がいくつもある。
なんでこんな山の中にそんな施設を作ったのか。
なぜ放置されたような荒れ具合なのか。
そんな状態でも、機械だけが鳴り続けていることがあるだろうか。
その部屋の入り口を封鎖している理由は?
腕を組み思案してみるも、これといった回答は思い浮かばない。
……考えるだけ時間の無駄か。
そもそもここには、ガタの来ていた槍の代わりになりそうなものを探しに立ち寄っただけだし。
すぐ近くに目的地があったとわかっただけでも良しとするか。
さっさと魔晶とかいうのを探そう。時間かかるかもしれないしな。
開かずの扉の向こうへの探索を諦め、思考を巡らせていた頭を切り替える。
最後に扉をちらと一瞥してから、俺は階段を降り始めた。
背後で小さく鳴った、『ガチャリ』という錠前を開けるような音に、ついぞ俺は気づかなかった。
「……どこだよ! 魔晶ってやつは――――!」
施設を後にした俺は、火口湖の淵で一人叫んだ。
山肌に反射した自分の声がエコーとなって空しく響く。
初めて見る火口湖は、絶景の一言に尽きた。麓辺りの森と違って遮るものがないからか、少し強めの風が吹き、水面が小さく波打っている。時折雲の切れ間から除く太陽が水面に反射し、より一層の幻想的な風景を演出していた。
まあ、それはいい。この風景だけで登山をする価値があると思えるくらいだ。
ただ、魔晶らしきものがさっぱり見当たらない。
さざ波を立てる湖には、日本の観光地のように銅像が立っていたりするわけでもなく、手掛かりらしいものが何もないのだ。銅像どころか岩や木なんかも無いように見える。
まさかとは思うが、水中のどこかにコロンと転がってやがるのだろうか。
広さは学校のグラウンドくらいで、そこまで広大ではないはずなのだが、一切目印のない空間は、東京ドーム並みに絶望的な広さに感じられる。
あのペテン師……行けばわかるさ、とか言っておきながら何の手掛かりもねーじゃねーか!




