音痴の直し方を俺に教えてくれ⑦
歌っているのは先ほどディアナと共に歌い上げてもらったものと同じ曲だ。そうだと分かる。
まだ音程は完璧ではない。むしろ外れている部分の方が多いだろう……しかし、目に見えて改善している! 声量も普通だし、俺の知る、一般レベルの『音痴』の枠に留まっている! 何よりボエ声じゃなくなってる!
思わず目を丸くして、歌い続ける金髪の少女の背中を見つめる。隣ではディアナも驚愕の表情を隠していない。ただ一人黒髪の女性だけが、全てわかっていたかのように口の端を吊り上げて頷いていた。
少しして、アイリスが歌い終わった。振り向いた彼女の表情もまた、どこか変化があったことを肌で感じ取っているようだった。
「……なんか、さっきより歌い易かった気がする」
「いやいやいや、それだけじゃないから。めっちゃくちゃマトモに歌えてたぞ!」
「お見事です、アイリス様!」
わぁっ、と色めき立つ俺たち三人。
原因不明だったアイリスの音痴が快方に傾いた! これくらいであれば、ディアナのパーフェクトな音程と共に歌い続ければ、かなり上達が見込めるんじゃないだろうか!
数日後の二人が、見違えたように素晴らしい歌声を披露する様子が目に浮かぶようだ……いやまあ流石に、数日でというのは早計過ぎるかもしれないが。
「あ……あの、ありがとうございました!」
よくわからないままに、ディアナと手を取り合ってはしゃいでいた様子のアイリスだったが、少し離れたところにいる黒髪の女性を見て、ハッとして再び腰を直角に折り曲げた。
そうだ、結果的にアイリスの音痴はこの人が直してくれたことになるな。俺からも礼を言っておかないと……そうして頭を下げようとした俺を、再び左手を向けて女性が制する。
「あー、いい、いい。下手に国の中で披露されるよりマシだ……ところでお前ら、召喚者一行だろ? 案内するからさっさと来い」
そう言うと女性は、ちろりとディアナを見て、森の方へ向かって踵を返した。
「……ん? あれ、もしかしてガランゾの人?」
「バッ、バカッ! アンタ知らないの!? ああ、知らないのか……あーもう!」
なんだその反応。急に怒ったり、頭を抱えて青くなったりと勝手に百面相するアイリスを半目で睨みつける。
「マスター、あの方はおそらく……」
「ああ、名乗ってなかったか?」
ディアナが俺に耳打ちするより早く、女性がこちらに半身振り返った。
「私はフレア。フレア・ガランゾ・スプリングロードゥナ。ガランゾを治めてる者だよ」
「え」
凍り付いた俺に女性は、ふてぶてしさと美しさとを兼ね備えた笑みで、にかっと歯を剥き出してそう告げたのだった。




