音痴の直し方を俺に教えてくれ⑤
「仮にも魔術師の端くれなら、己の魔素程度しっかり掌握しておけ馬鹿者! あんな声を国のど真ん中で放ってみろ! 建物は倒壊、民は昏睡して、国が傾くわ!!」
「返す言葉もございません……」
あー、そんなに酷かったんだ。
国の中じゃないからってことで、アイリスも心の中のセーブを解除していたのかもしれない。徐々に気分が盛り上がって今まで以上に魔素が込められていたら……これ以上考えるのはやめよう。
平謝りを続ける金髪の少女を見た女性は、フンと鼻を鳴らすとようやく向けていた穂先を下ろした。優に二メートルはありそうな金属製の槍を、易々と片手で取り回し、石突を地面へ着ける。アイリスと同じか、それ以上の怪力の持ち主のようだ。
「ん……? お前、よく見たら心素持ちか」
顔を上げたアイリスを一瞥し、女性が呟く。
「は、はい」と、未だ恐縮した様子のアイリスに詰め寄ると、何やら検分するかのようにジロジロと全身を見回し始めた。
「何やってんだ、アレ」
「さぁ……?」
少し離れたところで様子を見ていた俺とディアナは、女性の意図がわからず首を傾げる。
やがて、「おっ」と女性がぼそりと漏らした。何かを発見したような口ぶりだが――
と俺が思うや否や、女性は右手の槍を肩に担ぎ直し、フリーになった手でそのままアイリスの首をわし掴んだ。
「ぁぐっ!?」
「おい動くな。ズレるだろ」
慌てふためくアイリスに、女性は平坦な口調で答える。
直後、アイリスの細い首を掴み続ける女性の手に、大量の魔素が集中するのが見えた。
「ちょっと熱いぞ」
黒い手袋に包まれた女性の手が一瞬で真紅に染まり、更にそれを超えて白熱色へと転じた。
「――!??!? ああああああああ!!!」
アイリスの悲痛な叫びが響き渡る。
――あの魔素量はヤバいだろ! アイリスの首が、炭になるどころか溶け落ちるほどの高温だと一目で分かる!
「おい、止めろ――」
遅まきながら、アイリスから女性を引きはがすべく駆け出そうとした俺を、ディアナが制服の袖を引っ張って制止した。その女性本人も左の掌を向け、ディアナと同じ意思を示している。
「まあ落ち着け。少しだけ待てば分かる」
……今なおアイリスの悲鳴が辺りに広がる中、その元凶本人に言われても信用できるか!
俺の袖を掴み続ける相棒に、困惑に満ちた視線を投げかける。しかしディアナは、常の落ち着いた冷静沈着な表情だった。
「おそらく大丈夫です、マスター。本当に彼女がアイリス様を害する目的であるならば、首を掴まれた時点で、アイリス様は声を出せなくなっているはずです」




